Linkslover

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LIVという怪物ができるまで|シプナック『LIV and Let Die』

アラン・シプナックの『LIV and Let Die』を読み終えた。

ykkactuarial.hatenablog.jp

本書の最後に要約されているけれど,プロゴルフ界を永遠に変えることになった LIV Golf は,ちょっとしたアイデアから始まった。そのアイデアに,グレッグ・ノーマンの積年の野心と,サウジアラビアの願望と,Yasirのゴルフに対する思いと,PGA Tourあるいはプロゴルファーに横たわるbitchiness,そして皮肉なことに Premium Golf League 構想時代のマキロイの一言が後押しになって,LIVという怪物が生まれた。

最初の2章で語られるけれど,そもそもPGAツアーもいまでこそレガシーだなんだと清廉潔白なイメージを押し出しているけれど,もともとは――今のLIVと似たようなかたちで――プレーヤーたちの秘密のミーティングから始まり,訴訟だの出場停止だのボイコット騒ぎだのがあったということ。そしてLIVのコミッショナーであるグレッグ・ノーマンは超物質主義者で,かつ〈ワールドツアー〉の実現を古くから夢見,その夢が破れたことが長年のこじらせになって常人には不可解なパワーの原動力になっているということ。そういう意味でLIVは生まれるべくして生まれたとも言えるし,いろいろなものが噛み合ったからこそ生まれたとも言えることが分かる。

そのLIV,好きか嫌いかはおいといて,スタートアップとしては大成功と言えるんじゃないか--ラームも加入したことだし。その背景にはPGAツアーが制度疲労を起こしていることもあるだろう。ただ面白いのは,もともとLIVとは無関係に Premium Golf League(PGL)という構想があり,サウジアラビアはそこに投資家の一部として入る予定だったし,そのPGLもヨーロッパツアーと連携するはずだったけどコロナとかがあって頓挫して,それでサウジはそのアイデアをほとんど丸パクリしてLIVを作ったという。

ただそのサウジも,文字通り地面からカネが湧いている状態だけど,しかしLIVに対して無尽蔵にカネを出すかというとそうでもないらしい。PIFはPIFなりの,サウジはサウジなりのアジェンダがあって,LIVも含めて彼らの投資はその文脈の中に位置づけられるらしい。

そしてたとえばPGAツアーのトーナメントの冠スポンサー(たとえばFedEx)はだいたいサウジアラビアでビジネスをしているし,オーガスタナショナルのメンバーたちもビジネスでサウジアラビアと深い関係を持っているし,みたいなことを読んでいると,じゃあLIVに対する違和感の正体がだんだん分からなくなってくる--その何割かは関わっている人間,ノーマンだったりその他声のデカいプレーヤーたちのせいなんじゃないかと思うけど。

そういえばこの本が出た直後にジャスティン・トーマスが「ツアーについてもっといいこと書いてくれよ」みたいなことツイートしていたよううに思うけど,この程度の内容でJTも何言っちゃってんのって感じがする――そんな甘いこと言ってるからケプカに「俺はあんなカントリークラブボーイたちとは違う」って言われるのでは。そのケプカも「俺はLIVとの契約が決まったとき母に電話なんかしてない」とか言ったらしいけど。

そんな感じでLIVという怪物が生まれるまでのあれやこれやをいろんなストーリーで紡いでいくのだけど,LIVという本筋には直接的に関係のない,たとえば以下のようなデシャンボーのシングルスレングスアイアン誕生秘話なんかも挟まれるので,

golf103.hatenablog.com

読みどころだらけ。