Linkslover

I want to be a window through which Japanese golfers can see what’s happening outside. TPI G2/P2.

ゴルフ(スイング)はなぜ難しいか? - Vol. 1|そんなに〈重心距離〉が悪いのか

そもそもはこういう素朴な疑問だったんですけど,

〈難しさ〉の定義

たとえば「棒をできるだけ速く振り回せ」って言われたときに,人は細かいことを考えないで棒を振り回すだろうけれど,なんでゴルフクラブを振るとなるとやれ「トップの位置がどうの」とか「シャローアウトしてどうの」とか考え出すんだろう……っていう意味での〈難しさ〉とか,

あるいは,たとえばうちの子供をスキーに連れて行って,彼らに2時間ぐらいの個人レッスンを受けさせたらもう十分親と一緒に楽しんで滑れるぐらいに上達したのに,ゴルフだときっとそうはいかないだろうという意味での〈難しさ〉とか,

そういう意味で「ゴルフは難しい」って言ったときにその〈難しさ〉って定義するのは容易ではなく,さらにゴルフというゲーム自体の難しさとゴルフスイングという動作の難しさはまた別の話――最終的にそれらは重なってくると思うんだけど――なんだけど,ひとまずここでは緩い意味で「なぜ人は芝の上にある白い球をゴルフクラブで打つのにこれほどまでに悪戦苦闘しているのだろう」ということを考えたいと思っていただきたいのと同時に,それを考えることで〈ゴルフスイングって要するにこういうことでしょ〉っていうことを浮き彫りにしてきたいという意図があることも,はじめに明記しておきます。

ほんとの〈重心距離〉のせいなの?

それで,個人的にはとても驚いたことに,上記のツイートをしてレスがふたつあって,それらがいずれも「ゴルフクラブの偏重心性」あるいは「クラブヘッドの重心距離」のせいだ,って主張されていたんですよね(あえてそのツイートをここで引用することはしないですけど,冒頭のツイートからやり取りが見れると思います)。

〈偏重心性〉に由来する違和感については僕も以前書いたことがあるけれど,

〈気持ち悪さ〉を克服してこそゴルフスイング - Linkslover

だからといって「ゴルフクラブが偏重心であることがゴルフの難しさの本質だ」とは思わないし,逆にゴルフクラブが偏重心じゃなくなったら僕の/貴方のゴルフスイングはプロのように美しいものになって,なかなか切れない100の/90の/80の/70の壁が簡単に切れるようになるんですか?

そうじゃないでしょ,きっと。ダフる人は偏重心だろうがそうじゃなかろうがダフるだろうし……ってなことを書いたら「そこは練習するしかないですね」ってレスがついたんだけど,そこでもまだ練習が必要であるという事実こそが,偏重心性が〈難しさ〉の本質じゃないことの証左だと思うんだけど。

あと,ホッケースティックだって偏重心だけど,そのことでホッケーが難しいって言う人いるんですか,って書いたら,「ホッケーの場合はロフトがなくて平べったいパックを転がすけど,ゴルフの場合はロフトのついたクラブでバックスピンをかけて球体を浮かすから別だ」って言われたんだけど,だとしたら偏重心性は本質じゃなく,その〈球体〉とか〈ロフト〉とか〈バックスピン〉とかが難しさの根源だって話にならない?

だいたいクラブが偏重心であることがゴルフの難しさの本質なんだとしたら,なんでわざわざそんなクラブを昔も今も作っているわけ? 「用具規則で決まっているからだ」っていうのはそうなんだけど,

パターを除き、クラブのすべてのヒール部分は、シャフトの真っ直ぐな部分の軸線と意図するプレーの線(水平方向)を含む面から0.625インチ(15.88ミリメートル)以内に収まらなければならない

そういうルールが決まる前から人は偏重心なクラブを使ってゴルフをしてきたわけでしょう?

「偏重心なクラブは難しいけれどそっちの方が飛ぶからだ」という意見もあって,でも用具規則って往々にして飛距離が出ないような――クラブの長さにしろ反発係数にしろ――かたちで決まっているのに,なんか一貫性がないなぁという気もする。

それはともかく,「偏重心な方が飛ぶ」っていうのは本当にそうなの? と疑問を呈したら,その後者の人には「簡単な物理でしょ。それがわからないのならもっと勉強しろ」と言われまして。たぶんその人の中では「偏重心な方がシャフト軸とクラブヘッドの重心とのあいだに角速度が発生するからそのぶんヘッドスピードが増す」っていう理屈なのかなと想像してるんだけど,でもクラブの先端に慣性モーメントがつけば,そのぶんヘッドスピードって落ちない?

「偏重心な方が飛ぶっていって,それってどれぐらい飛ぶんですか?」と尋ねたら,「マーク金井さんが検証しているので過去記事をさぐれ」と。

で,さぐってみたんだけど,

重心距離ゼロのドライバーを打ってみたら‥ | マーク金井ブログ

クラブが軽いこともあってヘッドスピードはいつも同じか、若干早めになりましたが(大体47~48m/s)、飛距離はいつもより10ヤード弱ダウ~ン!! 人間試打マシーンもロボット並の精度があるのにホッとしましたが、それよりも気になったのがスイングのしづらさ。

一般には、重心距離が短いほどヘッドを返しやすい。返しやすいからスライサーでも捕まった球が打ちやすいと言われてます。でも、重心距離がゼロに近いと、フェースの向きをまったく感じ取れません。結果、フェースは返りやすいし、開きやすくなる。ハンドリングがシャープ過ぎるクルマと同じで、ちょっとした動きでフェースは閉じたり、開いたりするからです。

BUMPER(バンパー)ドライバー | マーク金井 Official Web Site

長い重心距離の最新ドライバーと比べて、飛距離差は5〜10y減

「BUMPER(バンパー)」ドライバーは、重心位置をシャフトの延長線上に近づけて(重心距離10mm以下)、劇的にクラブの操作を簡単にしました。ゴルファーは、感覚的にフェース中央でヒットしやすくなり、大型ヘッドにありがちなフェースが戻りきらずスライスしてしまうミスもなくなります。

ヘッドの素材とか作りとかが同じじゃないから「5〜10y減」と言われてもapple-to-appleじゃないというか,その減少が何に起因するものなのかよく分からない……けどとりあえず重心距離によるものだとしておこう。

でもまさにマーク金井が書いているように,その重心距離だってゼロになるとクラブフェースの動きがピーキーになるから扱いにくいわけでしょう? 実際このBUMPERドライバーとやらもわずかに重心距離を確保しているし。

「偏重心による難しさを上回るほどの飛距離のベネフィットってあるんですか?」という質問には,「ゴルファーだったら(飛ぶことのメリットは)わかるでしょ」というお答え。たしかに飛んだ方が嬉しいのはわかるけど,でもだからってティーショットで常にマン振りするわけじゃなくて,〈飛距離と正確性とのバランス〉みたいなものを意識しながらスイングするわけでしょ。

ということで,「ゴルフスイングはゴルフクラブが偏重心だから=重心距離があるから難しい。でも偏重心のデメリットを上回るほどの飛距離のメリットがあるから,人々は偏重心のクラブを甘受しているのだ」という主張には,あまり納得感がないなと自分では思ってる。

しつこいけど〈重心距離〉を続ける

「重心距離があるから飛距離が伸びる」という仮説が正しいとして,だとしたらドライバーはもっともっと重心距離を長くしてもいいわけじゃん。長いほど飛距離が伸びるんなら。でもそういう方向には進んでないでしょ。どのメーカーのドライバーも大きさ的には大差ないし,その中で重心距離とか高さとかを調整できるようになっている。

ということは,重心距離がゼロだとピーキーだったりして扱いにくく,重心距離が長すぎても振りにくかったりヘッドスピードが落ちるから(たぶん)扱いにくく,そういう両極端のどこかあいだに飛距離とか振りやすさとかいろいろなものの〈最適なバランス〉がとれる場所があって,それがいまのドライバーになってるわけでしょ。

あとパター。〈重心距離〉というものがそれほど〈難しい〉ものだとしたら,なぜすべてのパターがフェースバランスではなくて,逆に重心距離(あるいはトウハング)に関してさまざまなバリエーションが存在するのか。こう言うと「ドライバーとパターは違う」って声が聞こえてきそうなんだけど,でも「〈重心距離〉がゴルフを難しくしている」という主張は「〈重心距離〉は常に厄介なもの」と言っているのにほぼ等しいと思うんだけど,「ドライバーの重心距離は難しくて,パターの場合はアリ」とかいうと,それは〈重心距離〉に関する一般的な主張ではなくなるし(上記のホッケースティックの話と同様),〈重心距離〉が常に悪者って話でもなくなるし,結局「人によって/クラブによって/場合によって最適な〈重心距離〉ってのがある」って話に落ち着かないですか?

パターだって,「ストレートな軌道で振りたいから」という理由でフェースバランスを使う人がいれば,同じ理由でトウハングの強いパターを使う Dave Phillips のような人もいる。ドライバーにしたってミケルソンみたいなスイングをする人は重心距離が長いのは嫌だからフランケンウッドをCallawayに作ってもらって全英を勝ったけど,でも多くのプロは今の大型ヘッドのドライバーを平気で使いこなしているわけでしょ。

なので何度も繰り返すけれど,「〈重心距離〉があるから――あるいはゴルフクラブは〈偏重心〉だから――ゴルフは難しい」という主張には僕は与しないし,むしろそれがある程度あるから飛距離は伸びるしクラブフェースの状態も感じ取れるし,ポジティブな面の方が多いのでは? ただ――これも繰り返しになるけど――,シャフトの軸上にクラブヘッドの重心がないがゆえに,スイングの始動の段階でエラーが起こってしまっているゴルファーが少なからずいるのは認めます。