Linkslover

I want to be a window through which Japanese golfers can see what’s happening outside. TPI G2/P2.

〈シャローイング〉って結局なんだ?|大人は答えてくれない|現時点での自分の考えのまとめ

プロローグ

「シャローイング」に関する「みんなのゴルフダイジェスト」の記事が*1公開されて,ネット上で話題となるとともに,いろいろな反応を引き起こしています。

面白いからもっと盛り上がって,って感じなんですが,肝心なことが書かれていない。つまり,

  • シャローイングにすると何が嬉しいのか?

ってこと。もともとの「みんなのゴルフダイジェスト」の記事にしたって,

クラブを寝かせて下ろすことでインパクト付近では勝手にスクェアに戻りオートマティックにインパクトできるという考え方で、体の動きとしては切り返し以降左ひざを積極的に動かしていくことで、下半身を回していく。

と書いてて,ナンノコッチャって感じ。ということで,ここで僕なりの考えをまとめます。体系的にまとめたいので,長くなります。

そもそも,ゴルフという競技とは

  • ゴルフとは,できるだけ少ない打数でホールアウトすることを目指す競技

というのは,言うまでもないですよね。そのためには,

  • 飛距離はできるだけ長い方がいい

けど,「飛ぶには飛ぶけどどこに飛ぶかわからない」だと困るので,

  • ショットの再現性はできるだけ高い方がいい

という話になります。「飛んで曲がらない,曲がったとしても常に同じ方向に同じ幅だけ曲がる」というのが理想です。

  • スイング理論って何のためにあるかって言ったら,大きなミスをしないため。常に60点以上のショットを打つのがスイング理論の本質。

という比留間豊氏のひとこと*2が,核心をついています。

で,「ゴルフは物理です」なんていわずとも,ボールの飛び方はインパクトのときのクラブヘッドの挙動によって決まる。なので,「ヘッドがボールにインパクトする様のブレをできるだけ小さくしたい」とともに,「ヘッドスピードはできるだけ上げたい」となる。

「飛距離」と「正確性」とは往々にしてトレードオフの関係のように捉えられるけど,そうともいえない。なぜなら,プロより飛ばない私(あなたでもいいけど)が,プロより正確なショットを打っているわけではないから。ある時点まで来たらそれらがトレードオフになると思うけれど,そうなると

  • 正確性を最大限確保するという制約条件の中で最大の飛距離を目指す

というのが,ゴルフという競技のめざすところからいって,最適解になるはずです。(「んなことはいいから俺は飛ばせるだけ飛ばしたいんだ!」「今日イチがひとつでもあればいいんだ!」という方もいらっしゃるでしょう。その人が満足であればそれでいいですが,それは「ドラコン」という競技に近いと思います。)

ようやくスイングの話

じゃあ何をしたらいいかというと,

  • 「再現性」を確保するために「スイングからタイミングの要素をできるだけ排除する」

というのが目指すところになると思います。「スイングにおけるタイミング」って何かというと,「フェースローテーションのタイミング」ですね。「フェースローテーション(アームローテーションでもいいけど)を意識して球をつかまえる感覚を覚えよう」という教えは,あるレベルのゴルファーには有効だと思うのですが,それはあくまで「あるレベル」まで。クラブヘッドの軌道が毎回同じであっても,クラブフェースの開閉が毎回違うタイミング・速さで行なわれていると,「再現性の高いインパクト」は望めないわけです。

しかし極端な話,ロボットのように関節をがちがちに固めて,つまり上体と両腕との角度が常に変わらず,手首の角度(3つの軸に対して)も不変で,胴体の回転だけでスイングしてインパクトしたとします。すると,「インパクトはアドレスの再現」のようになるし,「インパクトの再現性が高まる」ことは容易に想像できるけれど,同時に「飛ばなそう」であることも明白です。そりゃそうだ,動力源が胴体の回転だけなんだから。

  • 「再現性」を確保するために「スイングからタイミングの要素をできるだけ排除する」

のは,「手あるいは腕の能動的なアクションをできるだけ排除する」こととほぼ同値です。そうすると必然的に,「胴体の回転でもってクラブを引っ張る」というかたちにならざるをえなくなります。その条件下でインパクト時のヘッドスピードを最大化するためには,

  • なんらかのかたちで胴体の回転するスピード(角速度)を速める

というのがまず思いつきます*3。それ同時に,

  • クラブヘッドがボールに当たるまでの時間をできるだけ長くする

というのもポイントになってきます。胴体の回転の角速度が同一であれば,インパクトまでの時間が長いほど,インパクト時の速度は速くなっているわけですから(ゴルフは物理です!)。

ではその「時間」というのは「(ボールとクラブヘッドとの)距離(≒角度)」と言い換えられますが,その「時間」すなわち「距離(≒角度)」を長く(大きく)するためにはふたつあって,

  1. バックスイングをできるだけ深くする
  2. シャフトを寝かす

ということで,この「2.」がすなわち「シャローイング」です。

ようやくシャローイングの話

簡単のために,前傾せずに直立した姿勢で考えます。まっすぐ立って両腕を前方にまっすぐ伸ばし,両手でクラブを握ってシャフトを直立させます。このままバックスイングのように上体を右に90°ひねると,ボールとクラブヘッドとのあいだには90°の角度がついているといえます(頭上から眺めたとして)。

しかしこれに加えて,シャフトを90°右に寝かせるとします。このとき左右の手は地面に対してほぼ平行の位置関係で,左手の甲は天を向いて右手の甲は地面を向きます。こうなると,ボールとクラブヘッドとのあいだには,約180°の角度がつくことになります(180°きっかりにならないのは,腕の長さがあるから)。それで前傾したとすると,はい「シャローイング」のできあがりです。

シャフトを寝かさないときに比べて,遥かに大きな「角度」が得られることになり,インパクトまでの時間を遅らせることができました*4

もちろん,人間の体やはロボットのような剛体ではないので,意識せずともこの「シャフトが寝る動き」は大なり小なり発生すると思うのですが,その動きを積極的に認識・意識してスイングに取り入れているのが,最近の「シャローイング」と言えると思います。

↓「シャローイング」とか「シャローアウト」とかはひとことも言ってないけれど,僕の言いたいことを述べてくださっています。

www.youtube.com

クラブフェースと「シャット」の話

上のセクションで無視していたものがあります。それはクラブフェース(の角度)です。

上記のように「クラブを立てたまま回転してインパクトする」と,インパクト時にクラブフェースはスクエアです(構えのときにスクエアだったとして)。でも,左手の甲が天を向くようにシャフトを寝かすと,当然それに伴ってクラブフェースも天を向きます。そのままインパクトするとどうなるか? 当然,クラブフェースはけっこうな角度で開いたままインパクトを向かえることになります。

ではどうするか? 「クラブを立てて戻すことでフェースを閉じる」のは,この理論展開の流れで目指すものではありません。なぜならそこにはタイミングの要素が入ってくるから。ここですべきなのは,

  • 左手首の掌屈および右手首の背屈

です。要するに,

  • 左手首をクッと折って,手のひらが自分に向かうようにする動き

です。ダスティン・ジョンソンとかジョン・ラームとかセルジオ・ガルシアとかが切り返しでやってるやつです。これは「シャット」と呼ばれることが多々ありますが,

  • 「開いたものを閉じている」という意味では「シャット」であっても,クラブパスに対しては「オープンであったものをスクエアにする」動き

です。ここを理解していないと,「シャット=クローズ」だと思って,悪いイメージしか持てなくなります。

ここまで来たら,あとは体を左に回すだけです。柔軟性,筋力,地面反力(床反力)。角速度を高める要素はいろいろありますが,とにかくできるだけ素早く回ることを目指します。手と腕のアクションは何も必要ありません,というか,そのアクションをできるだけ殺すのが目的でした。

マッチングの問題

以上が,自分なりの「シャローイング」の解釈でした。繰り返しますが,

  • シャローイングの本質は,ボールとクラブヘッドとの距離をできるだけ離すことで,インパクト時のヘッドスピードを最大限に高める(再現性をできるだけ確保した上で)

だと理解していますし,それが「シャローイングして何が嬉しいの?」に対する自分なりの答えです。この動き(あるいは現象)自体は昔からあったと思うんですが,最近バズワードのようになっているのは,ジョージ・ガンカスの影響もさることながら,「用具の進化(ボールもクラブも飛距離性能が向上した)」と「プロツアーのレベルアップ(飛ぶだけじゃ勝てない)」という要素が大きく影響していると思っています。

ちょっと戻りますが,「最大飛距離」を高めたいだけだったら,もしかしたら「フェースローテーションをばりばりつかってボールをつかまえにいく」のが最適解かもしれないです。でもプロたちがそうしないで「高い再現性という制約条件の中で飛距離アップを狙う」のは,ひとえに「そうしないと勝てない」からでしょう。

「アマチュアには(シャローイングは)難しい動きだから,習得しようとするのはやめたほうがいい」という声もありますが,

  • 練習量が少ないアマチュアだからこそ取り入れたい動き

だという考え方もできます。もちろん,新しい運動をするわけですから,一時的なスキルの落ち込みというのはあるでしょう。そこに耐えられるか,それに耐えるメリットがあると信じられるかどうか,でしょうね。

「マッチング」という言葉で言いたかったのは,前のセクションで「シャット」について触れましたが,この「シャット」にしたってそれ単体で望ましい動きなわけじゃなくて,上で述べた通り「シャフトを寝かす動きで生じたクラブフェースの動きをオフセットする」という意味合いがあるはずなので,そこを無視してただシャットにしたってそりゃ引っかかった球しか出ないでしょうし,体の回転でクラブをひっぱらないでフェースローテーションをさらに入れようとしても,左の林や白杭が待っているだけです。というふうに,個々の動きも全体的な運動の中で捉える必要がありますよね,ということです。

キープレフト理論

最近話題の「キープレフト理論」は,この「シャローイング」したあとの動きのことだと,僕は理解しています。クラブを寝かす,左手首を掌屈する。これをスタート地点だとすると,シャフト軸をグリップ側に延長すると,それは体(あるいは回転軸)の左側にくる。それを左側に保ち続ける(keep left!)ということは,すなわち「体の回転でクラブを引っ張り続ける」ということと同値です。

シャローイングで難しいのは,やっぱりその「シャフトの寝かせ方」です。運動の流れの中で無意識にできるのが理想ですが,それまではちょっとしたコツがいる。なので,その「縦のものを横にする」という過程を端折って,

  • 「最初からクラブを寝かせて,寝かせたまま体を回す」というのが「キープレフト理論」

というのが,僕の理解です。そうすると,本来であれば運動の流れの中ですべきシャローイングという動作を省くわけで,それは理想的な状態に比べれば飛距離の減少につながる(その理屈はまだ自分では説明しきれませんが)。でもその減少があっても余りあるほどのメリット(再現性と飛距離の向上)が得られる,というのが,繰り返しますが僕なりの理解です。

バットとゴルフクラブ

よく,ゴルフクラブという道具の特異性を説明するために,「偏重心」という言葉が使われます。つまり「野球のバットやテニスのラケットは,その重心が軸の上にあるけど,ゴルフクラブはその重心がシャフトの延長線上にはない」とかいうやつです。

まぁそりゃそうなんだけど,そこに必要以上に注目するのはどうなんだろうなって思いがあって,特に野球の場合,「長い棒を振る」という点では一致してるし,ゴルファーが「シャローイング」って騒いでいる行為を,バッターは普通にやってるわけですよね。

大きな違いは「クラブフェースの存在」であって,バットにはそれがない。だから「野球やってる人はスライスしがち」っていうのはネガティブな意味合いで言われることが多いけれど,実はそれは「シャローイングが自然にちゃんとできている証拠」かもしれず,そこで「クラブフェースを閉じる」という動作はいままで意識していなかったからできないのは当然で,そこに「左手首の掌屈」あるいはクラブの側からみると「γのトルク」*5さえ入れれば「立派なスイングの完成です!(堺正章ふうに)」ってなるかもしれないじゃないですか。

だからまぁ,多くのアマチュアゴルファーは,しぶこや東大ゴルフ部*6みたいにバットを振った方がいいんじゃないですかね。というか,いたずらにゴルフの特異性に注目するんじゃなく,他のスポーツからも謙虚に運動の本質を学んだ方がいいんじゃないでしょうか。

エピローグ

以上が,現時点での自分なりの「シャローイング」の解釈とメリット,およびそれに関連するトピックのまとめです。また考えが変わったり増えたりしたら別記事を立てますが。

本来なら大人のメディアの人たちがこういう記事を書くべきだ

追記|2020-09-15

その後いろいろ見たなかで面白いと思ったのが,タスクさんのこの本の中にある,シャローイングだったかパッシブトルクだったかに関する説明。

松本協『ゴルフの力学:スイングは「クラブが主」「カラダは従」』三栄書房 - Linkslover

要するに,「PGAツアープレーヤーはもうフォースはほぼ最大限に出し切っているから,追加でパワーを生むにはトルクしかない」ってやつ。これはなるほどなぁと思いました。