予告した通り*1,この本の感想を書きます。
世界標準のスイングが身につく科学的ゴルフ上達法 (ブルーバックス)
- 作者: 板橋繁
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2019/04/17
- メディア: 新書
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イントロ
最初にこの本の存在をAmazonで知ったとき,ブルーバックスでゴルフの本が出ることに対する驚きの気持ちを,まず抱きました。そのときはすぐ購入しなかったんですが,こないだスクールにいって練習してたとき,隣の打席で他の生徒さんとコーチとが「Amazon全体の中で売上3位のゴルフ本がうんぬん」という話をしているのを耳にし,「なんですかそれ?」って訊いたら「ゴールドワンの人のですよ」と。ということで,「ブルーバックスのゴルフ本」と「売れてるらしいゴルフ本」とが,そのとき繋がりました。
ゴールドワンについてはまったく知らなかったんですが,この本によればYouTubeにレッスン動画を2008年からアップしつづけ,いまでは「総再生回数7000万回」という人気プログラムなんだそうですね。
自分で言うのもなんですが,こんなにいろいろレッスン動画見てるのに,これまでこれを知らなかったことが驚き*2。
内容
「グリップ固く握って体の回転を止めてリストターンしてヘッドを走らせる”ジャパニーズ・ゴルフ”は間違いだらけだぜぇ」「オレの提唱するG1メソッド*3は世界標準のスイングだぜぇ」というスタンスで,この「G1メソッド」なるスイングとその実現方法について説明していってます。
んまぁ,こういうスイング,つまり「バックスイングでアップライトにあげてから切り返し移行にシャフトが寝て(パッシブトルク!),体の回転を生かしてシャローな軌道でROC(Rate of Closure)の小さいスイング」が,世界的な主流であることは間違いないでしょう。感覚的に。G1メソッドという名前はともかくとして。
ちなみに,この筆者が参考にしているのがベン・ホーガンのスイング,そしてホーガンが唯一弟子と認めた(?)ジョージ・ヌードソンの,この著書らしい。
- 作者: George Knudson,Corne Rubenstein
- 出版社/メーカー: Kirsh & Baum Pub
- 発売日: 1988/11/01
- メディア: ペーパーバック
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それはそうとして,そのホーガンの『モダン・ゴルフ』ですらあれやこれや言われているのに*4,この本に限界がないわけではない。というか,どのレッスン本にも共通する話ですが,要するに本読んだだけじゃ上達しないって話で(当然),それはつまりティーチングとコーチングの違いという話だったりするし,感覚表現の記述の限界だったりする。
面白いっちゃあ面白いし,記述の密度とか熱意が,他の凡百のゴルフ本とは一線を画しているんですけどね。ただちょっと,「世界標準」とか「科学的」とか謳われると,いろいろケチつけたくなる。
苦言
- 「世界標準」とか言ってるけど,これが「世界標準」である証拠はどこにも書かれてないぞ。結局というか最初から最後まで,この人のメソッドを紹介してるだけじゃん。
- 同じく,「科学的」とか言ってますが,どのへんが「科学的」なんですかね。ブルーバックスに入れるためには「科学」って単語がどうしても必要だったんですかね。
- 「日本のインストラクションはガラパゴス。これが世界標準」っていうスタンスが徹頭徹尾貫かれていますが,「今までの教えは間違い,ほんとうはホニャララ」っていう言い回しの日本のゴルフインストラクションってよく見るんですよね。この人達が目の敵にしている「今までの」「日本のインストラクション」ってのは,どこに存在するんですかね? 仮想的を作っているだけなのでは?
- 日本では「手を返すスイング」が標準で欧米では逆に「手を返さないスイング」が主流,んで「その背景には,もしかすると農耕民族と狩猟民族の違いがあるのかもしれません」って言ってるけど(p.30),欧米の人っていまでも狩猟してるの? 日本人っていまでもみんな田畑を耕しているの? 人類ってみんな狩猟の時代から農耕の時代に移行して文明を生み出してきたんですよ。『銃・病原菌・鉄』を読めとはいわないけど,よくこれで「科学的」なんて謳えたな。
- 「手元を止めてクラブヘッドを走らせるより身体を回転しつづける方がヘッドスピードが上がるのは,円運動の半径が長くなるからだ」的な説明があるけど(p.35),それってあくまで両者の角速度が一定だという前提のもとで,だよね。説明としては雑で,よくこれで「科学的」なんて謳えたな。
- 同様に,「日本人は手を使ってクラブを振ってインパクトの瞬間に最大の力を加えようと考える」のに対して「欧米人は,身体をねじったままインパクトし,それからねじりをほどいてエネルギーを使うので,ボールに当たり負けせずに,ボールを押し込める」と述べたあとで,「力積」(力の大きさ×力の働く時間)という用語を持ち出してそれっぽく説明してるけど,これも「科学的」を謳うにしては雑すぎ。そもそも「ボールを押し込む」の定義が曖昧だし,ちゃんと議論するなら力の方向とか加速度(F=maですからね)とかを持ち出すべきでしょ。
要するに,ブルーバックスなんだから編集者はもっとちゃんと仕事してほしい,ってことです。
*1:ラウンド前日の読書はロクなことがない|千葉新日本ゴルフ倶楽部 - Linkslover
*2:YouTubeのレコメン機能もまだまだだな。あるいは単に自分が動画サムネを見過ごつづけただけか。
*3:なんでこういう人たちって独自の「なんとか理論」「なんとかメソッド」って名前をつけたがるんでしょうかね。桑田泉「クォーター理論」とか,吉田直樹「レフトペルヴィススイング」とか,塩川隆幸「クロックメソッド」とか,中井学「ヒップターン理論」とか。
*4:たとえばこれ:ハンク・ヘイニー『オメーラ・レッスン―40歳を過ぎてもゴルフは上手くなる』 - Linkslover