Linkslover

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カイル・フィリップスの設計哲学|Golf World Top 100

カイル・フィリップスも日本ではあまり知られていない設計家かもしれないですが,韓国の South Cape Owners Club をプレーしたことがある方は少なからずいるでしょうね。

カイルは Kingsbarns の設計で一躍有名になったと思いますが,僕はその姉妹コースである Dundonald Links はプレーしたことがあります*1

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Yas Links in Abu Dhabi

ソース

Kyle Phillips — Golf World Top 100, 26 March 2019

拙訳

1|すべてのコースはハンデ16のゴルファーのために

ゴルフコース設計家は,設計をするときにハンデ16のゴルファーを思い浮かべるべき。ティーショットで毎回350ヤード飛ばすプロではなくて。ハンデ16のプレーヤーが楽しめないようなコースだと,ゴルフというゲームは長続きしないから。プレーできる人が少ないような難しいコースを作るのは簡単,と同時に,チャレンジがまったくないようなノッペラボウなコースを作るのも簡単。鍵になるのは,毎日ハンデ16のプレーヤーが楽しめるようなセッティングにでき,同時にバックティーでアングルをつけて,必要時には大会が開催できるような(難易度を確保できる)中間点を見つけること。ツアープロやエリートアマチュアでなく,マーケットの本流であるアマチュアをターゲットにすべきという鉄則は変わらない。

2|革命(revolution)ではなく進化(evolution)を考える

ある種の人たちがそう思わせたいほどには,ゴルフは終わっていない。6ホールで3ループするコースの導入で,18ホールではなく12ホールプレーできるように,なんてアイデアを何年も語ってきているけど,あぁぁぁぁ! いまあるかたちでゴルフをプレーしてきた私たちのような人間にとって,ゴルフを根本的に変えることは難しい。それよりもすべきなのは,飲食しながら数時間さくっと楽しめるシミュレーションとかを通じて,若い世代をゴルフに惹きつける方法を考えること。コースを変えるのではなく,ゴルフへの敷居を低くする方法を考えること。それからショットの仕方やエチケットなんかを教えればいい。Top Golf みたいなのは,正しい方向の上にあると思う。

3|少ないことはいいことだ

設計家は,ショートコースをより多く造ることで,ゴルフの拡大に寄与できる。上記の6ホールとか12ホールとかのことではなくて,初心者がビビることなく,時間がかからず,もっと楽しんでプレーできるコースのことを言っている。いい例は,アブダビに私たちが造った Yas Links の9ホールのパー3アカデミーコース。証明完備で,いつでもプレーできる。そのコースへの反応は驚くべきもの。繰り返すけど,すべては敷居を下げて,もっと楽しめるようにすること。

4|ティーイングエリアについて

スロープレーに関するすべての言説と私たち設計家が事態を改善するために抱える責任について言っておきたいのは,私が設計の仕事を始めた1980年代から,フロントティーの位置は変わっていないということ。問題を起こしているのは,バックティー。いま,バックティーからのコース全長は7000ヤードではなく7600ヤードというのが標準的になってきている。本当の問題は,プロはどんどん飛距離を伸ばしていて,それにともなってコースも長くせざるをえないということ。だけどアマチュアのゲームでは,女子もシニアも飛距離を伸ばしてはいない。彼らのクラブヘッドスピードはあがっていない。その結果,フロントティーとバックティーとのあいだは,どんどん開いてきている。これはとにかく馬鹿げている。テクノロジーのちからでこのギャップを埋めるか,ゴルファーはもっと前のティーでプレーする必要がある。

5|飛距離よりもショットメイキング

ティーショットで250ヤードとか300ヤードとか飛ばそうと考えないことで,ゴルファーはもっとゲームを楽しめる。ドライビングレンジにいけば,ドライバー,ドライバー,ドライバーばっかり。ゴルファーはもっと,ショットメイキングがゴルフの醍醐味だと再認識すべきだし,いろんなライからの打ち方を習得して,150ヤード以内での創造的なショットを身につけるべきだ。初心者がそれをえられたら,ティーショットで飛ばすことを考える必要はない。ティーショットで140とか150ヤードぐらいでフェアウェイに打てたら,18ホールのコースで100は切れるだろうし,自分に対してもコースに対しても,いい気分になれるだろう。

6|柔軟な思考でゴルファーへさらなるサービスを

ゴルフコースが未来に向かって生き延び繁栄するために,カスタマーの定義を再検討する必要がある。地元カリフォルニアで最近,ゴルフコース運営者たちとともに,地域内の6-7コースへのアクセスが得られるチケットのスキームに取り組んだ。空いてるティータイムとホールを狙うわけだが,このチケットでは自分の妻とかパートナーとか子供たちをコースに連れて行けて,ちょっとプレーを楽しめる。グリーンフィーの元を取るために9ホールとか18ホールとかをプレーしなきゃ,と思う必要もない。結果として,プレーする場所とか長さを選択する自由が,より得られる。スキーのシーズンパスみたいなもの。こんな風に,ゴルフコース同士で協働する方法を検討すべきだと思う。ライバルだとか競合だとかと思っているコースと協力したいなんて思わないのが自然だろうけど,実際に何かやってみたら,得られるものの方が多いと思うよ。

7|技術の進化を受け止める

いまドライビングレンジと練習グリーンが人工芝というコースはいくつかある。では,コース全体が人工芝というのはすぐに登場するものか? いつかそれが生まれると私は思うが,具体的にいつと明言するのは難しい。近い将来,Pebble Beach に行ってみたら全部人工芝だったなんてことがありうるか? 私が生きている間にそれが起こるかどうかは分からないが,何が起こるかは分からないもの。技術は進化するし,それによって私たちがプレーするゴルフコースも変わっていくかもしれない。その変化を恐れるべきじゃない。変化は起こるものだし,どう変化するかがポイントだ。

8|すべてのコースを歩けるように

ヨーロッパでは現在それほど問題にはなっていないけど,アメリカではよく,ゴルファー4人がそれぞれカートに乗ってあちこち走り回って,タバコだ携帯だってやってる。『Caddyshack』のロドニー・デンジャーフィールドみたいだね。私が思うに,簡単に歩けないコースを設計するのは大問題。なぜならそれはゴルフというゲームの精神を壊すし,友人とコースを一緒に歩いて球を打って会話に花を咲かせるという,ゴルフの素晴らしい側面を毀損するから。それからまた,多くのコース設計では,ゲームのリズムが失われている。最近のモダンコースの中では,広大な敷地の中にホールが拡散していて,歩いてラウンドするなんて不可能なものがある。将来的には,簡単に歩けるコースを設計して造りつづける必要がある。ゴルフという体験とその醍醐味を,保護する必要があるんだ。

9|温故知新

ゴルフコースを新設するとき,発展途上のマーケットでは,自分のとこのクラブハウスが他より大きいとか,18番ホールのグリーンうしろの滝が他より立派だとか,そういうことが気にされがち。たぶん,ゴルフが正しく理解されていないんだね。イギリスの偉大なコースをプレーすれば分かるけど,そういうとこはクラブハウスもシンプルで,床がきしんだり照明もしょぼかったりするけど,でもそういうとこがただただ魔法のようだったりする。近年コースを大量に造った中国みたいなところを将来も目にするだろうけど,本当の意味で長年抜きん出ていられるコースが造られるんじゃないかな。ゴルフというゲームに対する考えと理解の進化だし,そういう方向に進んでいる。

10|設計のルールなんてないことを受け入れる

偉大なコースに共通する要素は? 誰が本当にそれを知っている? 私自身は,素晴らしいコースのあるべき姿についての個人的な見解を持っているし,私の作品からはその思考が見て取れると思うが,私の嗜好は他の人と大きく違っている可能性もある。それはそうあるべきで,なぜならゴルフコース設計はとても主観的なものだから。ゴルフは芸術のようなもの。それはすべて,自分が個人的にどう見てそこから何を得るかという問題。

11|責任と持続可能性に配慮した設計

水の消費というのは,ゴルフコース設計についてまわって決してなくならない課題のひとつ。だけど過去10年間で大問題ではなかったし,悪化もしなかった。多くのケースで大きな問題なのは,乾燥地帯で水を効果的に使わなければいけない,ツーリストタイプのゴルフコースを設計するとき。だけど水の問題というのは食品の問題に似ていて,その分配が明らかに鍵になる。世界中には余りあるほどの食品があるけれど,それがすべての人に分配されてはいない。同じことが水についても言えて,その方程式を解かなければいけない。