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設計家トム・ファジオ|オーガスタ, 日本, ランキング, ラスベガス|Top 100 Golf Courses of the World

マスターズ開催に合わせて,オーガスタ・ナショナルの改装に長年かかわってきたトム・ファジオの記事を訳しておくのも悪くなかろうと思ったんですが,これが非常に長文で,しかしかなり面白かったです。

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Augusta National

ソース

Golf Courses - Today's Golfer, 26 March 2017

拙訳

トム・ファジオのように,ゴルフコース設計の世界で意見を偏らせる人はいない。業界内の多くの人が,彼のトレードマークである劇的なバンカーリングと目に映えるタイトなフェアウェイを称える一方で,ミニマリスト派のデザイン愛好家はしばしば彼の作品に非常に批判的である。彼のデザインは大げさであり,戦略的な観点からは一次元的すぎる(プレーヤーにひとつだけの攻め方を要求する)として。パインハーストの4番と8番コースをはじめとした名だたるコースの設計のほか,ロサンゼルスの Riviera Country Club やジョージア州の Augusta National をはじめとする数々の著名なコースの改造プロジェクトに,彼はその名を残している。ファジオの設計事務所はまた,2020年の東京オリンピックの開催地である霞が関カントリークラブ東コースを改装することを決定した。

Golf World 誌の編集者 Nick Wright は,南アイルランドの Waterville で開催された毎年恒例の World Invitational Father & Son Golf Tournament 期間中に,ファジオから話を聞いた。

叔父に導かれて入った設計の道

「私はこの業界で働く最初の機会が得られたのは,第2次世界大戦時代のトーナメントゴルファーだった私の叔父ジョージ・ファジオのもとでだった。1950年の全米オープンで,彼はベン・ホーガンとロイド・マングラムに並んだが,18ホールのプレーオフで敗れた。(編集者注:それは、ホーガンが致命的な自動車事故の後に戦いの場に戻った年だった)。もし私の叔父がそこで勝っていたら,彼のプレーヤーとしての地位はより高くなっていて,より競技に出場するようになり,私の人生もまったく変わっていたと思う。かわりに,彼はキャリアの次の段階に焦点を合わせ,それはゴルフコース運営と設計ビジネスになった。私の父はジョージの長兄だった。叔父には自分の息子がいなかったので,彼は私を世話してくれた。」

「当時,コース設計ビジネスというのは非常に似通っていた。1960年代初頭,建築家はコースを設計し,建設もした。通常,クライアントは1ホールあたり約1万ドルから1万5千ドルの予算を割り当てる。だから,ゴルフコースひとつで約2万ドルの予算で設計と建築をする。過去に戻って偉大な設計家にインタビューすることができれば,彼ら全員がおそらく,より多くのリソースを与えられていたら何か別のことをしただろう,と言うだろう。想像してみてほしい,A.W. Tillinghast が Caterpillar D8 ブルドーザーを与えられたとしたら。あるいはタイガー・ウッズが絶頂の時期に彼が打つ球を見ていたとしたら。50年後クライアントが1ホールあたり100万ドル以上を費やしてゴルフコースを造るすることになるだろうなんて,私はこれっぽっちも想像したことがなかった。」

「その時代から私のキャリアを通じて,私が大事にしてきたことが3つある。まず,クライアントに真の価値を創造すること。次に,細部への配慮が重要であること。最後に,お金を賢く使うこと。1ホールあたり予算が1−2百万ドルあるからといって,何も考えずにコースにお金を投げ入れる必要があるわけではない。しかし,コース設計の哲学は変わった。私のキャリアの初期段階では,いくつかの基本的なものを使ってコースを作成し,それを成熟させることができた。今は,小さな木を植える代わりに大きな木を植えている。雨が降ったときでも砂を所定の位置に保つために,バンカーを並べている。望まれる正確な色を出すために,ポルトガルやフランスから砂を持ってきている。こんなことをするなんて,30年前には考えられなかった。」

日本とのかかわり

「私がアメリカの外で仕事をしないことに対して,人々は私を批判してきたが,私にとっては家族が常にいちばんだった。子供が幼いころに海外に頻繁に出かけなければいけなかったら,私は仕事を変えていたと思う。幸いなことに,私はアメリカで忙しくしつづけるのに十分な量以上の仕事があったので,そうする必要はなかったが。それに,アメリカは広大な国だ。テキサスに行ったら,平らな地形と風に取り組む。カロライナの沿岸地域に行けば,リンクタイプの土地がある。ネバダとアリゾナでは,山と砂地がある。ものすごい多様性だ。同時に,私は大きなゴルフブームを二度も経験できた。60年代後半と70年代初頭,毎年約300コースが建設された。同じことが1992年から2007年にも起こった。フロリダ州とノースカロライナ州に住んでいて,私は仕事に没頭していた。平均で年間4-5コースを造った。」

「1980年代に,日本でのコース設計の依頼をたくさん受けた。日本人はすばらしい人々で,ゴルフを愛している。だけど私は行かなかった。あまりにも時間を要するし,家から離れる時間が長くなるから。当時の日本人は,ペブルビーチやニューヨークのロックフェラーセンターなど,日本人が象徴的な不動産を購入することが常にニュースになっていた。当時のゴルフ雑誌に,こんな記事があったよ。『アメリカには売られていないものが3つあります。オーガスタ・ナショナル,ペブルビーチ,そしてトム・ファジオ』。あぁ,日本人はひとつは手に入れたね。他のふたつはできなかったけど。」

私は子供が成長したら,妻と一緒に日本に旅行にいくつもりだった。だけど文化は変わって,コース新設も非常に少なくなった。とはいえ,私の息子 Logan は最近,初めての日本でのプロジェクトに契約した。2020年のオリンピックコース。彼は日本に8回行ったことがある。旅行は若い男のゲームだね。」

設計思想

「理想的な土地は何なのかよく訊かれるが,場所がどこであってもコースを設計に特別な情熱を持つことはない。しかし,私は採石者*1への情熱がある。彼らと一緒に働くのは楽しいし,急勾配は彼らに大きな可能性を与える。しかし,すべてのプロジェクトは人々から始まる。潜在的なクライアントを訪ねても,最適な場所や最適な土地を見つけられるかどうかを判断するのではなく,彼らの人となりを見て,対等のパートナーとしなれるかどうかを確認する。どんな理由であれ,私たちが混じり合うことができないと感じられれば,その機会を見送るんだ。」

「私の最初の設計プロジェクトを思い出すことはできないが,初期のプロジェクトのひとつは,ペンシルバニア州フィラデルフィアの Waynesborough だった。最近50周年を迎えたよ。私の叔父はまだ偉大なプレーヤーで他の仕事があったので,彼はやってきて私に指示を出してそして行ってしまった。私は19歳で,すべての採用を担当した。昨日のように覚えているよ。」

「私がパインハースト4番コースの改修に取り組んだとき,マスコミとメディアは多くの誇大宣伝をした。彼らは,私たちがドナルド・ロスのデザインを破壊していると主張したが,パインハースト4番は完全なドナルド・ロスコースではなかったというのが真実だ。ロスは時間と労力の大部分を2番コース*2に費やした。その結果,4番コースは長い時間をかけて多くの人々がかかわったホールの寄せ集めになっていた。そしてオーナーはそれを知っていた。私が投入され,ポートフォリオの他のコースに引けを取らないレベルにコースを改修することが求められた。それは改修ではなく,既存のコースがあった場所に新たなコースを設計する試みだった。」

オーガスタとの関わり

「私はオーガスタ・ナショナルと30年以上仕事をしてた。毎年契約を更新している。10年ほど前にメディアで騒がれが,いわゆる「タイガープルーフ(タイガー対策)」は,タイガーに対応したものではない。それはボール技術の進化に対応するものだった。オーガスタは常にコース改良のための長期的なマスタープランを持っている。クラブがユニークなのは,80年以上にもわたって世界のベストプレーヤーたちが毎年姿を現わすところ。それによってクラブは,すべてではないにしろ大部分のホールで,ボールがどこに落ちてどう転がるかを記録することができる。ティーの移動を含む最近のコース改造は,何十年にもわたる事実と統計に基づいている。」

「広くは知られていないが,ゴルフコースのメンテナンスにおける最近の革新の多くは,オーガスタで開拓された。地面に埋め込まれた地下水を排水するシステム。それはオーガスタで発明されたものではないが,まちがいなくそこで完成している。別の例。ある時点でオーガスタ・ナショナルは,5月から10月にコースが閉まるときにバンカーから砂を取り除いた。夏につよい雨が降ると砂が下の粘土に入り込んで赤く染まってしまうのを避けるために。砂と粘土の間にライナーを配して砂をバンカーに保っておくというアイデアを思いつく前に,彼らは何年もの間これをしていた。これは世界中の多くのコースで一般的に行なわれていること。」

「私たちのビジネスの事業の特異な点のひとつは,新しいものより古いものの方が好まれること。プレストウィック*3は私のお気に入りのコースのひとつ。ブラインドホールがあって,見えないグリーンに向かって打つ。とても奇妙な経験だけど,みんなそれを愛している。オールドコースも同じ。キャディーに言われた通りに球を打って,バンカーに入ってしまう。全く不公平だよね。これらが新しいコースだったら,みんなそれを嫌悪するだろう。試してみても,好きになれないよ。」

ゴルフコースランキング

「ゴルフコースのトップ100ランキングは,雑誌やクライアントにとって素晴らしいものだ。そして設計家にとっても……自分の作品がそこにあったらね! とはいえ,ランキングのプロセスには欠陥がありえる。まず,クラシックとモダンコースを同じリストに含めるのは不公平だと思う。100年前に造られたゴルフコースと,たとえば2010年のコースとを比較することは不可能。モダンコースはクラシックコース以上に良い可能性があるが,それは違うかたちで。さらに,たぶん聞いたことがないような素晴らしいコースが,たくさんある。たとえば102位とか105位とか110位とかでランク付けされたコースは,多くの場合,それより上のランクのコースと同じぐらいいいものだ。」

「コースの評価とランキングにはいくつかの基準がある。デザイン戦略,プレイアビリティ,公平性,チャレンジ,場所など。ひとつ以外はすべて同意する。コンディショニング。これは、とあるコースを他のコースから大きく分けるひとつの要素。コースを手付かずの状態に保つ余裕があるからといって,それが必ずしも最善なのか? 私たちはかつて,「ベスト・ニューコース・オブ・ザ・イヤー」のカテゴリーをアメリカの雑誌に持っていました。完全にピカピカの状態にコースを保つためにお金を投入するのは,とても重要になった。それはプロセスを変えた。よりお金を使ったクラブが,確実に勝つようになった。とはいっても,あまり文句を言うことはできない。プライベート,パブリック,リゾート。それら3つのカテゴリーすべてで勝った年がある。」

「さまざまな意味で,コース設計には多くの「学位」があります。誰もが意見を持っていて,多くの人が単にそこにはない意味を見つけたいと思っている。現実には,あなたがその土地にゴルフボールを開拓しようとしてるときに,他の人はあなたが到着するより前に,あなたが哲学を持っている思っている。結局,重要なのは最終結果だけ。1番ティーはどこで,コースレコードは何で,そして私が去るときにどれほど素晴らしく感じられるか?」

ラスベガスでのとある案件

「1980年代後半,ラスベガスでの大きな設計の仕事のコンペがあった。面接のあいだ,それまで一度も尋ねられたことがないという質問に出くわした。『何が素晴らしいゴルフコースを作るのですか?』 私を苦しめた人は,非常に頭のいい人だった。英文学を先行し,コース設計を学び,並外れたIQを持っている人だった。その答えに自信がなかったけれど,とっさに出た言葉がこれだった。『ペブルビーチとサイプレスポイントには何がありますか? 海,砕ける波,そしてカーメルベイの美しさ。パインハーストには丘陵があり,背の高い松とそして素晴らしい砂地があります。パインバレーには劇的な標高の変化と,砂の斜面と植生の多様性があります。すべては環境です』。最後に勇気を奮い起こして言ったのは,『ラスベガスでのあなたの土地の問題は,単に環境がないということです』。インタビュアーは私を見てこう言った。『それならなぜ私たちは環境を建設して,その中にコースを造らないのか?』 。『それにはいくらかかるか知っていますか』と口走ると,彼は私に指を向けて『それはあなたの仕事ではない。私の仕事はそれにカネを払うことであり,あなたの仕事は設計し,考え,そして造ることだ。私は払う。だからカネについて話すのはやめようぜ,いいかい?』と。インタビュアーは,有名なカジノの所有者であり起業家のスティーブ・ウィンでした。そして私たちが議論していたゴルフコースは,最終的には Shadow Creek *4になった。」

「ツアープレイヤーがコースを設計するという考えを,私はいつも気に入っていた。それは,コースデザイナーの名前をブランド化したもの。私には確立された評判があるので,それは私のビジネスに適している。しかし,それが若くて新進気鋭の設計家にとって朗報かどうかは分からない。プロジェクトの少ない厳しい経済環境の中で,誰が仕事を手に入れる? 元ツアープロか,それとも無名の設計家か。しかし,これは新しい話ではない。1970年代のゴルフコースブームの間にも,Don January と Gardner Dickinson という(元ツアープレーヤーの設計家という)先例があったんだ。」

道具の進化とコース設計

「ゴルフの行く末に関して私が本当に心配している唯一のことは,最近若い人たちがみんなよく飛ばすこと。アメリカのどの大学に行っても,300ヤードを有に超えてショットが炸裂しているのが見える。女子でさえ260から290ヤードも飛ばす。今年のとあるPGAツアーイベントで,ジャスティン・ローズが354ヤードもドライブするのを見た。454ヤードのパー4で,残りは100ヤード。10円前かそこらは十分な長さのホールだったのに。今はドライブ&ウェッジなホールになった。」

「ゴルフはいまだにパーをめぐるゲームだが,境界は変った。平均的なツアープレーヤーにとって,72はパーではありえない。トーナメントでリーダーボードのトップにいるプレーヤーが22アンダーを出しているとき,それは私たちのパーに対してマイナス22なのであって,彼のパーに対してではない。4つのパー5がある平均的なコースでは,そのうち3つは2打目ミッドアイアンでグリーンに届く。ツアープレーヤーのパーは68に近い。4ラウンドで計算すると,その22アンダーというのは実際には6アンダーに等しい。その差は大きいよ。」

「設計家として,ゴルファーの手からドライバーを取り上げることはできる。それは簡単。しかしゴルファーはドライバーショットが好きなので,私たちのクライアントはそれを望まない。ドッグレッグやハザードの位置の関係から,クライアントはわれわれがゴルファーの手からドライバーを取り上げることは望まない。だから私たち設計家は,角度を使ってコースを守らなきゃいけない。」

「新しいゴルフ場建設でコストを劇的に増加させるのは,農業。そしてそれは高そうには見えない。カネがかかるのは地形の高低の変化やコントゥアではなく,最高のグリーン,最高のフェアウェイ,最高の芝生,最高の砂,そして最高のティーを持ちたいという欲望。茶色のゴルフコースに何ら問題はないが,開発者やオーナーがそれで新しい会員を募るのには,非常に難しいコンセプトである。」

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Shadow Creek Golf Course in Las Vegas

*1:原文では「quarries」。「現場作業者」みたいな意味ですかねぇ。

*2:Pinehurst No.2 コース。マーティン・カイマーが優勝した2014年の全米オープン開催が記憶に新しい。

*3:スコットランドのリンクスコース。第1回全英オープン開催地。『風の大地』ファンにはおなじみ。

*4:ネバダ州ラスベガス。砂漠の中に突如現れる高級コース。タイガー・ウッズとフィル・ミケルソンが900万ドルをかけてあらそった2018年の「The Match」の舞台にもなった。