Linkslover

I want to be a window through which Japanese golfers can see what’s happening outside. TPI G2/P2.

運動学習の原理原則をゴルフに応用したい

TPI Golf Level 2のテキストの中で,「運動を教える人は読んでおいた方がいい」とかいって紹介されていたこの本。

ykkactuarial.hatenablog.jp

ネタの宝庫というか,Food for Thought でお腹がいっぱいになるというか,直接的間接的にゴルフの練習につかえる話が詰まっている。できることなら皆様にもこの本を通読していただきたいし,それが難しいならリンク先のまとめだけでも眺めていただきたいし,それでもアレなら〈実践的応用〉というところだけでも……。

……とりあえず,自分なりにゴルフの観点からまとめてみます。

ブロック練習とランダム練習

〈ブロック練習〉とは,同じことを何度も繰り返してその動きを身につけよう・その精度を高めていこうとする練習。〈ランダム練習〉は,試行ごとに何かを変えて,同じことを繰り返さないようにする練習。たとえば前者は,ドライビングレンジにいって150yd先の目標を同じ番手のクラブで同じスイングの同じショットで狙いつづけるもの。あるいは「30yd先の看板に当てるまで帰れません」とかいった目標を定めて達成するまで同じことをやりつづけるもの。後者は,ショットごとに番手を変えるとか,あるいは同じ150yd先の看板を狙うでも毎回番手を変えるとか弾道を変えるとか。

これ,素朴に考えたら,ブロック練習の方がスキルが身につくような気がするでしょ。でも,そもそもなぜ/なんのために〈練習〉するかといったら,本番でそのスキルを(高い精度で)発揮するためで,つまり練習時に身につけようとしている〈スキル〉が,練習が終わったあとも自分の中に残っていてほしい(これをスキルの保持=retentionと言ったりする)。でも,そのスキルの保持という観点からすると,ブロック練習よりランダム練習の方が,間違いなく効果的だという。

わかりやすい喩えがあって,計算ドリルをするとするでしょ。ブロック練習っていうのは,「27×8」っていう同じ問題を何度も何度も繰り返して解くようなものだと。1問目だけは考えて計算するかもしれないけど,2回目以降は記憶している前の答えを引き出すだけ。時間はかからないだろうけど,〈計算力〉は身につかない。一方でランダム練習っていうのは,毎回違う問題を解くことに似ている。当然時間はかかるけれど,毎回頭を働かせて計算しようとする。だから計算力が身につく。

そう考えると,たとえばラウンド前の練習グリーンで,同じカップを狙ってボール3個を同じ場所から打つのと,ボール1個で毎回違うカップを違う距離から狙うのとでは,どっちが意味がありますか,っていう話になる。

練習で身につけたい=実践で活きるスキルは,パラメータ調整能力。

〈補助〉や〈ドリル〉はほどほどに

世の中にいろんなドリルや補助器具ってあるじゃないですか。両腕のあいだにボール挟んで打つとか両脚のあいだにボール挟んで打つとか〈ゴルフの竪琴〉とか〈フレループ〉とかその他もろもろ。ああいうのって当然,何か〈目指す動き〉があってそれに近づくためにやってるけれど,そのためには〈しかるべき感覚〉を身につける必要がある。でも,ドリルとか補助器具を使った練習ばっかりしていると,その〈感覚〉がなおざりになるし,そのドリルや補助器具を使った練習は上手くなるけれど,そういった補助を外したときのスキルが向上するとは限らない。

たとえば,始動をどうも手だけでやっちゃう=体の正面から腕が外れるっていう人がいて,それを矯正するために両腕のあいだにボールを挟むドリルをするじゃないですか。そのときに大事なのは,「体の正面に腕を保つ」っていう〈動作〉を実現することではなく,「体の正面に腕を保つ」ときに自分の中にどういう〈感覚〉が起こるかを認識すること――その〈感覚〉が分からないと本番で実現できないし修正できないから。だから,ドリルをやりつづけるのではなく,ある程度動きができるようになったら,補助を外してその動きに伴う〈感覚〉にフォーカスすべき。

ドリルといえば,曲芸みたいなドリル(というか何か)――たとえばバランスボールの上に膝立ちしたまま球を打つとか――ができるようになったとしても,それはその曲芸が上手になったというだけなので。

運動の流れを止めない

ゴルフスイングはひとつのまとまった動き/ひとつの〈流れ〉なので,それを分断しても意味がない。練習する際は動きの流れを止めないように。フォーカスするポイントはその都度絞る。

同時に,極端に速い動作/遅い動作で練習しても意味がない。〈相対タイミング〉というものがあって,ゴルフスイングでいえば,スイング動作全体に占める各フェーズの動きの時間の割合は,スイング全体の時間を変えても一定であるということ。逆に言えば,この各フェーズの割合を崩すような極端に遅い動作あるいは早い動作での練習はすべきではない。

その他

長年言われている「シャフトは振り切れる範囲内で重い方がいい」に対する,運動学習的な答えは,「最大スイング速度があまり落ちない範囲でシャフトの重量を重くすると,ゴルフスイングの空間的正確性を高めることができる」。

トップパフォーマーに学ぶのは大事。ただし,彼らが自らの運動感覚をうまく表現できているかどうかは分からないので,慎重に判断すべき。

初学者に対する言葉の指導は慎重に。最初からあれこれ言い過ぎないこと。そして「独力で照合できる重要な点」を明らかにするのが大事。

練習段階の目標は,新しい運動パターンを探すさまざまな方法を試みること。