たぶんダメだろうなと思って買って読んでみたら,やっぱりダメだった。そういう意味での「期待通り」です。PRGRサイエンスフィット教本には,以前も失望したことがあるので。
この本,ステップ・バイ・ステップでスイングをレベルアップさせるかのように書かれていて,実際に本当の初心者がここに書かれている順番でスイングを改善できるかとても疑問だし,できたとしても時間の観点から非効率だと思うんですよね。
今習っているコーチの言葉に,
「レベル1」のスイングを完璧にしてから「レベル2」に移る。「レベル2」のスイングが完璧にできたら「レベル3」のスイングに…
というのがあるんですが*1,この本に書かれている「レベル1」とか「レベル2」とかは,きっとそういう意味ではない。この本の「レベル1」を実現しようとすると,「レベル2から4」の要素をある程度実現できていないとまともに球が打てないはず。
いや,これが経験に基づいた最適・最短の上達メソッドだというのなら,すみません。
最近訳したこの Golf Digest の記事*2,「初心者と上級者との違いを数値で表す」という点では似ているんですが,Golf Digest の方は「この順番でスイングを変えればいい」と言ってない。そういう点では,無害である(薄っぺらいし表面的ではあったとしても)。
概要
さて,本書は各方面で紹介されているように(例えばこれ),PRGRサイエンスフィットの出した教本の第3弾です。ISBNはないのでAmazonとか普通の書店とかでは流通していませんが,PRGR公式サイト(やゴルフショップ)で買えます。
この本の謳い文句は,「3万人にもおよぶアマチュアゴルファーのスイング分析をもとに,スイングのレベルに応じた具体的な壁の招待と,そのベストな解決策を明らかにした」。スイングのレベルとスコアとは関連しているとのことで,
- スイングレベル=1|スコア=~100台|課題=体の正面で打たない!
- スイングレベル=2|スコア=110台~90台|インサイド・アタック
- スイングレベル=3|スコア=90台~80台|ハンドアクションを覚えよう
- スイングレベル=4|スコア=80台~70台|骨盤と左腕の外旋を連動!
- スイングレベル=5|スコア=70台中盤~ツアープロ|スイングを数値化
ですって。で,「本書の最大のテーマとなる3原則」ということで,
- 骨盤が開いたインパクト
- シャットフェース
- 左腕の外旋
を謳っています。
レベル1|左のお尻が見えるインパクトが目標
「クラブを初めて握る初心者の方はまず,「骨盤が開いてインパクト」を覚えるべき=体の正面で打たない」とのことで,そのためにやるべきなのは,
- ハーフバックまでは,クラブを腕で上げず,骨盤の回転で上げるだけ
- ダウンスイングは骨盤を一気に開く,ボールに当てることは意識しない,
なんですって。でも,「骨盤の回転」だけでバックスイングできます? 初心者に「ボールに当てることを意識しないで骨盤開いて!」って言えます? このレベルでまず大事なのって,クラブを振ること/フェースをローテーションさせること/球をつかまえる感覚を知ること,なんじゃないでしょうか。
レベル2 |インサイド・アタックが目標
「初心者でレベル1の基本からスイングを覚えた人は,ほとんどアウトサイドアタックに陥らないもの」だそうですが,対応策としては,
アウトサイドアタックの人は,グリップ時点からフェースが開いているケースも多い,シャットフェースでグリップしよう,右に行くから予めフェースをシャットにしておく,というと小細工のよう感じる人もいるかもしれないが,フェースは予めシャットにしておくのが基本です!
ですって。
あと,「8時まではおヘソの回転でクラブを上げる」と書かれていますが,「ハーフバックまでは骨盤の回転で上げる」んじゃなかったでしたっけ。
レベル3|左手首を「山」で打つのが目標
ここでようやく手の話が出てくるのですが,「ハンドアクション」といっても「アームローテーション」とかじゃなくて,要するにフリップするな/ハンドファーストで当てろ,ということ。
ハンドファーストって手の問題じゃなく,それ以前の体の使い方の問題だと思っているのですが,ここでなされているアドバイスは「ハーフダウンまでに左手首の山を作っておき,そのままインパクトしろ,ということ。
ふーん。
レベル4|切り返し直後から左腕を外旋しよう
ようやくローテーションの話が出ました。「左腕を外旋」。アナライズストアblogではおなじみですね(例えばこれ)。「左腕」ってどこですか。上腕ですか,前腕ですか。
「切り返し直後にお尻(レフトヒップバック)と左腕の外旋を連動」とのことですが,「連動」とか「タイミング」なんて考えない方がいいです。いくつかの条件が整っていれば,左前腕の外旋は意識しなくても勝手に起こります。
「お尻といっしょに上体が突っ込むのを防ぐために,レフトヒップ・バックと同時に右の脇腹を側屈」とのことですが,個人的にはむしろ左サイドの感覚を大事にすることで結果的にウェイトシフトと右の側屈が実現できていて,右の意識だけだと極端な話,右にウェイト乗ったまま(左に軸をとらずに)右肩が下がってボールに届かずフリップ,ということになりかねない。
「振り遅れの正体は,腕が遅れているわけではなく,切り返しで左腕の外旋が入っていないからなのです!」と言っていますが,本質的に大事なのは「胴体と腕との同調」だったり「肘から先だけを動かす感覚」だったりすると思います。
ゴルフの本質(1) 〜またまた肘から先の運動について〜 | 高野裕正 ゴルフトレーナー、スイングコーチのブログ ~~クラブと身体からスイング運動を掘り下げる~~
で,これで完成したスイングの要点は,こんな感じらしい。
レベル5|スイングを数値化
あとは「ここまできたらたまにフィッティング受けて数値をチェックしてね」ということで,サイエンスフィットの宣伝です。
最後に
「プロでもコーチでも何でもない,ましてスコア80台が関の山のお前が何言ってるの」と思うでしょ。自分でもそう思いますよ。
でもねぇ,ボールを打つのはクラブヘッドですよ。そのクラブヘッドはシャフトとグリップを介して手につながってるんですよ。手は前腕と上腕を経由して胴体につながってます。そして下半身があります。この順番で球の打ち方を覚えていくほうが,効率的なはずです。
こんなところに常盤さんを引用するのは申し訳ないですが,ゴルフにおける手の重要性について,常盤さんはこんなことを書かれています。
A-WEAR/ゴルフと手 | TPIゴルフトレーナーのツアープレーヤー育成ブログ
これでもいいでしょう。
インパクトスナップ | TPIゴルフトレーナーのツアープレーヤー育成ブログ
記事の最初にあげた写真については,この記事だけ引用しておきます。