Linkslover

I want to be a window through which Japanese golfers can see what’s happening outside. TPI G2/P2.

外国語の習得術を運動学習に応用できないか

最近暇さえあればDuolingoで遊んでいるのだけれど,やればやるほど,自分は外国語(の習得)にもとから興味があって,それがここにきて一気に爆発しちゃってるんだなという気がしてる。

外国語の習得といえば,自分にとっては千野栄一『外国語上達法』がバイブルのような存在だ。

千野栄一『外国語上達法』岩波書店(岩波新書) - Dribs and Drabs

ここで印象的なのは,「外国語の習得に必要なのは〈時間〉と〈カネ〉」だといい,その〈時間〉と〈カネ〉をかけて何を学べばいいかというと,「〈語彙〉と〈文法〉」だという。*1

外国語を学ぶのは,その言語で会話をすることがひとつの目標としてあるけれど,ゴルフも自分とゴルフコースとの〈対話〉である……って書くとロマンチックに聞こえるかもしれないけれど,実際にはコース(設計者の意図)と自らの置かれた状況に基づいてプレーを組み立てていかなければならない。と考えれば,それを〈対話〉を称するのも意味がある,と思いたい。(「語学とは頭じゃなく体で覚えるもの」みたいに明言する語学書もあるので,語学の習得と運動の習得とを重ね合わせて考えるのは,あながち的外れとは言えまい。)

〈語彙〉とは,自分の中にどれだけ表現の〈引き出し〉があるかどうか。限られたボキャブラリーでも自らの意図を表現することはできるけれど,ボキャブラリーは少ないよりは多い方がいい。だけど,うろ覚えの言葉を使って意図が伝わらないこともある。

ゴルフで〈語彙〉いえば,ショットのバリエーション:ロングショットの高い球/低い球/ドロー/フェードとか,グリーンまわりのピッチ/チップ/フロップとか。あるいは,マン振り/置きに行くショット,みたいなのもあるかもしれない。

〈文法〉は,それらの〈語彙〉を組み立てて文章を作っていくための法則/理屈。子供が母国語を習得するときは,理屈なんか気にせず,見よう見まねで発話する。正しくない/おかしい表現をしたときには周囲の大人に矯正され,次第に然るべき文法を身につけていく。子供と大人の言語習得プロセスは少し違っていて,大人の場合を文法を明示的に学習する。

ゴルフで〈文法〉といえば,いわゆる〈コースマネジメント〉ということになるかしら。ティーショットの狙い方,ハザードの回避の仕方,アプローチショットの狙い方,ピンに対してどういうショットを選択するか,云々。

『外国語上達法』はこれらふたつの重要性を強調しているけれど,同時にその順番もまだ大事だと言っている。つまり,〈語彙〉が最初,次に〈文法〉。そりゃそうですよね。いくら文法を知ってても,単語をしらなきゃ文章は作れない。特に,基本的な単語――言語の場合では頻度順に1000語とか1500語をとにかく覚えることが大事だと言われているけれど――なしには,なにも表現できない。

ゴルフだって,「コースマネジメントが大事」っていくら言ったって,ティーショットをフェアウェイに打てないと話にならない。そういう意味で,永井延宏が「ティーショットの狙い方は教えるけど,このショットが打てないんだったらまず練習しろ」みたいなことを言ってたのは印象的だった。

golf103.hatenablog.com

そういえば『外国語上達法』では〈発音〉の大事さにも触れられている。「きれいな文章をひどい発音で話すよりは,まあまあな文章をいい発音で話す方が通じるものだ」みたいなことを言ってたり,「いい発音を身につけるには,とにかく始めが肝心」とか。このへん,ゴルフでは〈いいスイング〉に通じるものがある。

〈教師〉も同様。教師自身その外国語が/ゴルフがよくできて,教えるのが上手で,教えることに情熱がある。いそうでいない。

そしてになにより,〈目的〉と〈目標〉が大事。これを見失うと,する必要のないリシャフトに無駄金を費やし,追う必要のないスイング理論を追ってドツボにハマったりする(自戒)。

Freakeconomics!

……そんなことをぼーっと考えていた今日このごろ。Feedlyでかつて保存していた記事を眺めていたら,こんなのが目に入ってきた。

The Way We Teach Math, Sciences, and Languages Is Wrong - Freakonomics

Freakeconomics(懐かしい!)の人が,「我々が数学や科学や言語をまなぶやり方は間違っている!」と述べているもの。

「学校でフランス語を5年間学んだけどフランスに行ったときに全く話せなかあった」という筆者が,Assimilというところが出している独学書(とテープ)で勉強したら,その5年間以上の上達が3カ月で成し遂げられた,というもの。

そこから著者は,きっとこういう理由でAssimilのものが効果的な学習になったのだろうと分析している:

  1. アクティブ:学校の授業は教師の話を聞くのが主だけど,Assimilのコースでは30分の学習のうちほとんどが自分が話すことに費やされる
  2. 日々の練習:学校の授業は週に1回とか2回とかでしかないけれど
  3. ミスを恐れない:自宅でひとりで勉強しているので,間違ったことを話そうと何しようと気にならない
  4. 帰納的(演繹的ではなく):学校の授業は文法は文法として習うのに対し,Assimilのコースは会話の中で文法を学んでいき,しかしレッスンの7回に1回は会話なしで文法を学ぶのだが,その時点でその文法は簡単に思える*2
  5. 自然なフレーズ:Assimilのコースに出てくるフレーズは,その言語を話す人々が実際に言いそうなものになっている
  6. 楽しい!:Assimilのコースに出てくる会話はそれ自体が楽しい

リンク先の文章は,この先「数学とか科学の学習ってどうなってる? だいたいこの逆だよね」っていう話の流れになっている。まぁそうですよね。

これら項目はゴルフの練習に重ね合わせることができると思うけれど,いちいちそれはしない。ただ「帰納的」っていうのは深掘りのしがいがあるなと思っていて,たとえばゴルフの練習でも「球曲げる練習しろ」とか「グリーン周りでいろんなショットが打てるようになろう」とか言われてて,そのへん,実体験の少ない初心者は「なんで?」としか思わないと思うけれど,そこに実例を持ち出してそれらショットのバリエーションの必要性を認識させられたら,練習の質が高まるんじゃないかと思うんですよね。

「ミスを恐れない」*3にも重なるんだけど,ゴルフの場合,〈練習場での練習〉と〈ゴルフ場でのラウンド〉っていう要素の距離が遠くて,その中間――〈ゴルフ場での練習〉みたいなもの――がなかなかない。それもあって,「ミスする中で何かを身につける」っていう機会が恐ろしく限られていることも,ゴルフを難しくしている要因のひとつなんじゃないかと思った次第。

おまけ

「語彙はスイングのバリエーション,文法はコースマネジメント」って言ったときに,じゃあ〈スイング理論〉は何に当たるだろうかって考えてたけれど,〈語源学〉が近いかなって思った。「英語のこの単語は〇〇語の△△に由来している」とかいうやつ。知識として持っておくのは楽しいし,それを知ることで単語に対する意味が深まるけれど……みたいな。

*1:正確には,これは著者の千野栄一がその先生からもらった言葉のようだけれど

*2:Duolingoでフランス語をやってても,Unit 2 の Section 7 になって初めてピュアな文法(動詞の現在形の変化)の問題が出てきた

*3:わが息子もDuolingoにハマりだして英語を勉強しているけれど,「自分のやりたいときにやりたいだけできるから楽しい」って言うとともに,「間違うのが逆に楽しい」って言ってた。間違うと正解が分かるから。