GOLF Magazine と Nicklaus Design によるゴルフコース設計コンペのようなものがあるらしく,それに関連した記事です。Nicklaus Design のシニアデザイナー Chad Goetz(チャド・ゴーツ,でいいのかな)が,彼らの設計における8つの原則について語ります。
ソース
So, you want to design a golf hole? Here are the do's and don'ts by Josh Sens, 15 January 2020
拙訳
1. グリーンから始める
黄金世代の設計家,A.W.ティリングハストは,グリーンを人間の顔になぞらえた。そのホールを特徴づけるものという意味だ。これを設計の文脈に置き換えると,パッティングサーフェスから始めるのがいいだろうということ。プレーヤーにどんなボールでグリーンにアプローチさせたいか想像する。ロングアイアンでランの出る球か? ハイロフトのアイアンショットか? それに応じてグリーンをデザインする。その形状やサイズ,アンジュレーションなどを,打たせたいショットに合うように。「ついつい,きついアンジュレーションや厳しいバンカリングをしたくなるものだが」と,Goetzは言う。「覚えておいてほしいのは,俯瞰してみたときに意味を成すようにしなければいけないということ。それで残りのホールを性格づけることになるのだから」。
2. 楽しくなければゴルフじゃない
「ゴルフはゲームだ」とGoetzは言う。「楽しくあるべきだ」。もちろん,設計における他の要素がそうであるように,何をもって「楽しい」とするかは主観的な判断になる。しかし一般論として,罰は罰であって,それは喜びにはならない。「どのコースにも,難しいホールがあるべきだ」とGoetzは言う。「難しいホールにも居場所はある。だけど,必ずしもそのホールがプレーして楽しいののだとは思わないね。なので,もし私がホールをひとつだけ設計するとしても,やりすぎなぐらい難しいホールというのは,私の好むものではないね」。
長く,バンカーだらけのホールよりも魅力的なもの。Goetzが確信を持って言うのは,それはいわゆ戦略的なホール。ゴルファーにさまざまな選択肢があるホールだ。ティーショットは安全にいって,難しいアプローチショットを残すか? あるいはドライバーで攻めて,シンプルなピッチショットを次に狙うか? これは基本的な考え方であるけれど,その可能性は限りない。「リスクとリターンという言葉は,耳にタコができるほど聞いているでしょう。なぜならそれが,設計家がすることの本質だからです」と,Goetzは語る。「私たちはゴルファーのためにパズルを作ろうとしているのです。そのパズルが,コースというもっと大きなパズルの一部となっているようなものを」。
3. TVゲームのようなホールは作らない
地雷のようにバンカーを埋め尽くすのは,紙ナプキンにスケッチしているときはかっこよく見えるかもしれない。同じことは,アイランドティーからアイランドフェアウェイを経てアイランドグリーンに至るホールにも言える。だけど忘れないでほしいのは,プレーヤーにもおなじようにかっこよくプレーしてほしいということ。「数ホールプレーして,『ワオ,こりゃ設計上はめちゃくちゃ良く見えたに違いないな』って思ったことがある」と,Goetzは語る。要するに,設計図を書いてみて,実際のゴルフボールというよりTVゲームに出てくるホールのように見えたとしたら,その紙は捨てて設計をやり直したほうがいいよということだ。
4. 地形の変化を利用する
砂と水はまぁいい。けれど,ゴルフボールを防御するのには他の方法もある。「バンカーを15とか20とか置いたり,池を置いたりするのは簡単」とGoetzは言う。「しかし,より面白い戦略的なコンセプトというのは,地形から生まれるものです」。考えてみよう。たとえば,オーガスタのグリーン。フェアウェイの間違った場所からはそのグリーンは攻められないし,ホールの上につけたら死が待つのみだ。あるいは,オリンピッククラブのフェアウェイのいくつか。ドッグレッグしていて,右か左かに傾いている。爪先上がりか爪先下がりの傾斜で,ドローかフェードを打てとプレーヤーに要求してくる。「びっくりしますよ。ほんのわずかな傾斜や地形の変化が,ショットに影響するんです。それを気にするゴルファーは多くないかもしれない。けれど,そういった要素が,ホールのプレーのされ方にとてつもない影響を与えるのです」。
5. リカバリーショットの余地を残す
オーガスタの林の中で6番アイアンを振り抜いたフィル・ミケルソン。ペブルビーチのラフからチップインを決めたトム・ワトソン。ゴルフ史上に残る名シーンを思い浮かべて見よう。その多くが,リカバリーショットなはずだ*1。よくできたホールからは,それが生まれる余地がある。「すべてのホールに対して,私たち設計家はそのホールに対するあるべき攻め方というのを考える。しかし同時に,正しいショットが打てなかったときのペナルティは何かということも同時に考えているんだ」。リカバリーショットには,技術と想像力とが求められる。そしてそれが,興奮を生む。その興奮は,フェアウェイを切り裂くティーショットに匹敵する。「攻め方がひとつしかないホールっていうのは,とってもつまらない」と,Goetzは言う。
6. トラブルは目に入るかたちで
ブラインドショットには抗いがたい魅力がある。けれど,ニクラウス・デザインにおける基本的な設計哲学に,ターゲットとトラブルは目に入るところに置く,というものがある。「私たちのコースでも,ブラインドショットが必要になるかもしれない。だけどそれは,戦略性の一部です。たとえばパー4のホールで,安全なプレーを選択したり,ミスショットをしたりした場合,前が見えない状況の中で次のショットを打たなければいけないかもしれない。だけど基本的には,ジャックは考えに考えて,すべての要素を目に入るようにしている」。もし池があるのなら,ニクラウスは単にそこにあることをプレーヤーに知らしめるだけでなく,その縁までプレーヤーの目に入るようにしているのだ。グリーンについても同じことが言える。「パッティングサーフェスの全体は見えないかもしれない。でも私たちは,少なくともその角は見せようとしている。そうすることで,プレーヤーはどこまで打てるか・打てばいいかが分かるように」。
7. あらゆる能力レベルのプレーヤーに対応する
コース設計におけるもっとも難しい面のひとつが,やさしさのバランスをどうとるかということ。しかも,あらゆる能力のプレーヤーにとって魅力的なものでなければならない。「その問いは要するに,『どうすれば上級者にはチャレンジしがいのある,しかも初心者は楽しめるホールを作れるか』ということになる」と,Goetz。そのひとつのやり方は,さまざまなティーを設けること。そこで距離やフェアウェイへの角度,求めるショットを変えることだ。「たとえばドッグレッグホールなら,前のティーからは距離が短くなるだけでなく,ラインがよりストレートに近くなる。そうすることで,前のティーからプレーする人はストレートなショットが打てるけれど,後ろのティーからは,より斜めのフェアウェイに挑まなければならなくなる」。いまのエリートプレーヤーたちの飛距離を考えると,彼らにとってどれほどキャリーが求められても問題にならない。だけど私たちアマチュアは? 明確なルールはないものの,Goetzが言うには,平均的な週末ゴルファーが6300ヤードのコースでプレーする場合,130ヤード以上のキャリーを求めるのはやりすぎだという。
8. 縮尺通りに絵を描く
「GOLF Magazine + Nicklaus Design Challenge」に応募するために,8.5” x 11” サイズの紙に設計図を描いて提出する必要がある。それほどスペースがあるわけではないが,縮尺通りにスケッチするのは重要だ。Goetzが言うには,1インチを200フィートだとみなして絵を書くべき。
*1:タイガー・ウッズのオーガスタ16番でのチップインもそうだと言えるかしら。