まえがきにTom Doakが寄稿しているのでこの本を知ったと思うのですが,「砂地とゴルフ」をテーマにした一冊です。著者がこの本で目指しているのは,Prologueに書かれているように,「砂地に作られたゴルフコースに対する自らのパッションをを読者と共有し,そしてそのコースを設計するにあたって注ぎこまれるアートと設計の双方に深い理解を得てもらうこと」,そして「究極的には,この本を読んだ人が,砂地のコースを探し求め,そこでの経験を十分に楽しんでもらう」ことを望んでいるとのことです。
以下の要約を書くために一通り目を通したのですが,「砂地とゴルフ(コース)」について非常に真面目に考えて真面目に文章を書いたな,というのが,何よりの印象。North Berwickの2番ホールについて書かれていることなんて,2回もプレーしたのにこの本を読むまでそんなこと気づかなかったし,他でも目にしたことがなかった。まさにeye-opennerといった感じでした。
写真が豊富な点も良かった。そもそも版型が横長(23.6 x 31.5)であるところ,写真をキレイに見せようという意図が感じられるのですが,ただ美しい写真なだけでなく,本文の内容に即した,理解を助けるものが選択されています。
Sand and Golf: How Terrain Shapes the Game
- 作者: George Waters,Tom Doak
- 出版社/メーカー: Goff Books
- 発売日: 2013/11/26
- メディア: ハードカバー
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Introduction
砂地に作られたゴルフコースは割合でいえば少ないものの,世界の名コースのリストを見ると,砂地のコースの割合が多いことが分かる。なぜ砂地のコースは評価が高いのか,あるいはコースとしての質が高いのか? それをさまざな側面から解き明かしていくのが,この本のテーマである。
1: The Landscape of Golf
話はイギリスのリンクスランドから始まる。海と風,植物と動物とが,リンクスランドを作った。それがゴルフというゲームを形作り,こんどは逆にそのゲームがランドスケープを形作るようになる。
2: Sand and the Growth of the Game
ブリテン島のリンクスランドでは,動物たちが草を食むことで短い芝の部分ができ,それがフェアウェイやグリーンのもとになった。ゴルフボールもクラブも当初は効果だったが,産業革命によってガッタパーチャの大量生産が可能になり,ゴルフは大衆化した。鉄道の拡大が,ゴルフ人口の増加とコースへのアクセス向上に寄与した。そのゴルフの拡大につれて,海岸以外の土地にゴルフコースが設計されるようになった。その最初の大きな動きは,南イングランドのヘザーランドでのコース設計。20世紀初頭のこと。ヘザーランドとは基本的に砂地であり,そこに松やヘザー,ゴース,その他低木が生えている場所。これがゴルフコースにとって最高の植生となる。
次の大きな地理的動きとしては,新世界,そしてニューヨーク州ロングアイランドの砂地への移動。例えば,Charles Blair MacDonaldによるNational Golf Links of America。これはShinnecock Hillsの近くに位置する。Pine Valleyが砂地がもたらすドラマチックな効果のスタディだとすれば,Pinehurst No.2はその絶妙さの効果のスタディ。一見やさしそうにみえて,特にグリーンコンプレックスは非常に難しい。どの角度からグリーンを狙うかが重要になるし,はずしたときはバンプアンドランが最善。水はけが良いうえ,自由にフェアウェイのうねりやバンカーを配置できる。オーストラリアも砂地が豊富。1926年にかの地の渡ったアリスター・マッケンジーが,Royal MerlbourneやKingstone Heathを生んだ。最近のミニマリズムへの回帰の中で,代表例はCoore&CrenshawによるネブラスカのSand Hills。固くて速い土地を,戦略的なコースに仕立て上げている。そこには,原点回帰というべき「不完全さ」も持ち込まれている。
3: Features of Sandy Courses
海岸であろうが内陸であろうが,砂地のコースは,ゴルフに理想的ないくつかの条件を備えている。まずは,固くしまったターフ。これによって,ボールを転がすにしろ上げるにしろ,さまざまなショットメイキングと戦略的思考が要求される。次に,不規則な地面。水はけが良い土地ゆえ,それを気にせずに自然のままの地面の変化を活かせ,それがホールに面白みと戦略的な特徴を与える。さらに,自然によるバンカー。さらに,風。これが固くしまったターフを組み合わさることで,ゴルフの面白みはぐっと増す。
4: From Tee to Green
砂地のコースでは,パーが70に満たなかったり,あるいは連続したパー3ホールやパー5ホールなど,現代の標準的なルールにはそぐわない要素がある。これらは,設計家がいかにして土地の特徴を最大限に活かすか,というところに起因する。風の影響は非常に大きく,風向きが違えば同じホールでも日によって印象はまったく異なる。ルーティングをする上で,いろんな方向から風が吹くようにホールの向きを変えていくことが重要になる。代表例はMuirfield。最初9ホールが時計回りのループ,次の9ホールがその内側に反時計回りのループ,ということで,そのそれぞれで,四方から吹く風が体験される。オレゴンのPacific Dunesは夏と冬とで風向きが変わる。設計者のTom Doakは,もっとも長いホールともっとも短いホールをこの風向きに沿って配置するルーティングをとることで,風向きがどちらになってもコースの難しさが変わらないようにした。
砂地のゴルフコースは,一般的にフェアウェイが広い。それが,プレーにさまざまな選択肢を与える。と同時に,横風が強かったとしても,ボールはまだin-playの状態にありうる。St Andrews Old Courseはその最たる例。例えば14番パー5には,グリーンにいたるまで多くのルートがあると同時に,バンカーが非常に効果的に配置されている。さまざまなスキルレベルのゴルファーに,しかるべきプレーの喜びを与える。Royal MelbourneやPinehurst No.2なども,フェアウェイが広いのでティーショットでのプレッシャーは小さいが,ただグリーンコンプレックスの妙により,正確なティーショットだけが適切にグリーンにアタックできる,そうでないティーショットは難しいチッピングやパッティングに面することになる。
砂地のコースはまた同時に,低木しかないゆえ,オープンエアである。つまり,さまざまなシェイプのボールで攻めていける。そして,うねりのあるフェアウェイが,ボールのライに変化を与え,さまざまなショットをゴルファーに要求する。North Berwickの2番ホールは,海を抱きながら右にドッグレッグしていくホールであるが,海に近いフェアウェイは比較的フラットで,安全に左から攻めるほどに,うねりの強いフェアウェイからのショットが求められる。
プレイアブルなラフの存在も,ゴルフの楽しみには欠かせない。最たる例は,Pinehurst No.2。リストアによってネイティブエリアに変わったラフには,ペナルティとプレイアビリティとの絶妙なバランスがある。砂地ならではの植生(例えばヒース)は,コースと自然との境界に絶妙な風合いと色合いとペナル性を与える。また,砂地のコースは歩きでのプレーに適している。
5: Bunkers
通常のコースが規則的にバンカーを配置しているのに対して,砂地のコースではよりランダムである。たとえ「バックティーからのプレーヤーのランディングエリアに」といっても,風向きによってはまったく意味をなさないことがある。砂地のコースのバンカーは,さまざまな形状があるのも特徴。例えばSt Andrews Old Course,14番のHellバンカーは果てしなく大きく,一方で17番のRoadバンカーは限りなく小さい。フェアウェイバンカーが同じホールのガードバンカーより手強いケースもある。現代のコースのバンカーは予測可能で,場合によってはラフよりもいいライが望めるが,砂地のコースの不規則なバンカーではそうもいかない,つまり,ハザードとしての意味が残っている。Muirfieldのバンカーは,絶妙なかたちでハザードとして機能している。
バンカー内のアイランドグリーン(islands of vegetation)が見られるのも,砂地のコースの特徴。これは「ハザード内のハザード」として機能し,より注意を要するとともに,自然なルック&フィールを与える。
バンカーにボールが集まりやすいのも,砂地のコースの特徴。水はけを気にせず,バンカーに向かったフェアウェイの傾斜が作れるからで,またそれゆえ,さほど大きくないフェアウェイバンカーでも,ハザードとして精神的プレッシャーをプレーヤーに与えられる。
6: Approach and Recovery
ほとんどのゴルファーが思い通りにショットを打てない以上,意図せぬポジションからのリカバリーショットはゴルフに不可欠で,そして砂地のコースではそれが興味深いものとなる。バラエティとクリエイティビティが要求されるのだ。砂地のコースでは,アプローチショットもグリーン手前から転がす必要が出てくる以上,その地点でのフェアウェイのアンジュレーションは,グリーンのそれと同様に重要になる。
7: The Green
フェアウェイバンカーと同様,水はけの良さゆえ,砂地のコースのグリーンでは,hollow(窪み)やパンチボールといった形状が許容され,これがパッティングとアプローチに難しさを与える。また,現代のコースではグリーンの速さが必要以上に注目され,それがさまざまなコストの高騰につながると同時に極端な傾斜やアンジュレーションが許されない状況を生んでいる。
Royal Cinuqe Portsの6番ホールのような「テーブルトップ」グリーンも,砂地のコースでは見られる。ここではピンポイントの正確なショットが要求される。
フォールアウェイグリーン(前から後ろに傾斜)も,砂地のコースのような固く速いグリーンでは非常に手強くなると同時に,比較的フラットなコースに面白みを与える。
8: Designing with Nature
砂地の上に作られたコースは,多くの面で周囲の環境とより強い関係を持っている。その設計と維持は容易であるが,一方で常に変化の可能性にさらされている。海岸線のコースは,波による侵食の危機にさらされている。いくつかのクラブでは護岸の代わりにホールをより海岸から離れたところに移すなどの手立てをとっているが,それがゴルファーの支持を得るとは限らない。
砂地のコースは風の脅威にもさらされている。ひとつの強風でduneが表面が吹き飛ばされることもあるし,バンカーの中の砂が吹き飛ばされることもある。そうして砂が堆積してその上に芝が生えることで地形が少しずつ変化し,コースがオリジナルの意図とは離れていくこともある。
こうした変化からコースを守る手立てのひとつが,ゴースや木などを植えること。ただしこれはそのエリアの植生を変える可能性があるし,何より砂地のコースの特徴である戦略性・多様な選択肢を狭めるおそれがある。