ゴルフコースをめぐる旅もここまで来たかと我ながら思いますが,スコットランドの離れ小島,サウス・ウイスト島(Isle of South Uist)にある Askernish Golf Club でプレーをしてきました。日帰りはできないので島に1泊,そして2ラウンドをしました。
ウイスキー好きの方ならアイラ島をご存知だと思いますが,この South Uist を含む Outer Hebrides(アウター・ヘブリディーズ)は,そこからさらに北東にある諸島。いまだに住民の7割近くがゲール語を話すという地域です。
これがロンドンとグラスゴーとサウス・ウイストとの位置関係。
グラスゴーから最寄りの Benbecula 空港までプロペラ機で北西に1時間弱,そこからクルマで南に40分ほどでコースに到着。ちなみに Benbecula は「ベンベキューラ」だと思っていましたが,実際には「ベンベッキュラ」と,ふたつめの「べ」にアクセントを置いて発音します。航空会社の人は「Benbec」と略して言っていました。
奥がロンドンからグラスゴーまで乗ったeasyJet,手前がグラスゴーからベンベッキュラまで乗ったFlybeのプロペラ機。
ベンベッキュラ空港はこれほど小さい。
さて,この Askernish Golf Club は,興味深い歴史を持っています。もともとは1891年,Lady Gordon-Cathcart の招きによって訪れたオールド・トム・モリスが設計し開設。しかし Cathcart の死を境にコースは消滅。1980年台には South Uist のゴルフ人口は事実上ゼロに。2002年,引退した警察官 Colin McGregor が芝を刈って9ホールのコースを作り,島でのゴルフへの興味も復活。そして2005年,マスターグリーンキーパーである Gordon Irvine がフライフィッシングで島を訪れた際に,このオールド・トム・モリスのコースの存在を知り,そして翌2006年,Gordon Irvine はゴルフアーキテクト Martin Ebert とともに再び島を訪れ,単に芝を刈るだけでかつてのコースを「復元」させた…。
ゴルフコースのカフェに飾られてあった,オールド・トム・モリスの肖像画。
こちらはクラブ開設時のメンバーの写真だったかな。
といったように,かつて消滅したコースが再発見され復元されたこと自体が奇跡的ならば,その復元にあたってはそれまであった土地の芝をただ刈っただけでそれを行なったというのも,リンクスコースのあるべきかたち・本来のかたちを示唆しているようです。
その歴史やコースの雰囲気については,以下の Golfing World の映像が参考になります。僕もコースに行く前に何度この映像を観て期待をふくらませたことか。
このコース,たしか芝を刈るのは週に1回だとかで,グリーンの芝もだいぶ長く(スティンプメーターで7フィートぐらい),フェアウェイの野菊が一面に咲いている状態。そんな茫洋とした草地で人気もほとんどないものですから,コースガイドを見ていてもどちに向かって打てばいいのか方向を見失うホールがたまにある状態。「海岸近くの芝の上で球を打って遊ぶ」という,ゴルフの原風景・原体験と言えるものが,ここにはあります。
1番パー5,右ドッグレッグ。オープニングは何かを予感させるというほどのものはなく,ウォームアップにはちょうどよいプレーンなホール。
2番パー3のグリーン。あるがままの土地の芝を刈っただけという様子で,小さな傾斜がいっぱいある。グリーンは遅いので,下りのパットもけっこう簡単。それが逆に面白い。
6番パー5のティー近くで,ようやく大西洋を拝むことができる。「ここまでやってきてよかった」と思える瞬間。
7番パー4から,絶景のホールが続く。ティーから見下ろすと,右に大西洋,そしてその左には小さな丘に挟まれたフェアウェイが見える。
その7番パー4をグリーンから振り返ると,こんな光景。このフェアウェイを歩いているときは,何か別世界を訪れたかのようなトリップ感があります。
8番パー4のグリーン左脇のバンカーは,このコース全体で片手で数えられる数しかないバンカーのひとつ。レーキは置かれていなく,自然にできた砂地がそのまま放置されているような佇まい。
9番パー4の2打目付近。そもそもティーショットはブラインドで,2打目もこのような位置から。「砲台」なんて表現では生易しい,前後が強烈に傾斜しているグリーンに向かって打っていくかたち。風を計算に入れて打ったアイアンショットが,見事にグリーンに乗ったときの感動といったら!
11番パー3は,海の方向にある向こうの丘に向かって打つかたち。風は向かい風。ティーからグリーンフロントエッジまで約180ヤード。昔の飛ばないボールとクラブで,どうやってプレーしていたんだろうか。
12番パー5。左右ふたつのルートがあって,ティーショットが安全に打てる右のルートでは,2打目がブラインドに。左はティーショットの落とし所が狭いけれど,2打目地点からはグリーンがよく見渡せる。このスケールの大きさが,手を加えない自然の地形を活かすかたちで実現されているのが凄い。
16番パー4。かたちとしては軽い右ドッグレッグになるのだが,グリーンの左手前を小さな丘がさえぎる。ティーショットの飛距離を抑えれば2打目地点からはグリーンが見える。ティーショットが飛ばせば,2打目は完全にブラインドのアプローチショットになる。グリーンはほぼ全方面が下り傾斜に囲まれたパンチボウルドグリーン。私はなぜかこのホールと相性がよく,2ラウンドしてパーとバーディー。
最終18番ホールは,左ドッグレッグのパー5。大きなグリーンが待っている。安堵感と達成感と名残惜しさとを感じるところ。
コース全体に咲きみだれる野菊。「雑草と言う名の草はない」という昭和天皇のお言葉を思い出したりする。
コースにいた羊。その右に見えるのは,羊が掘った穴かな。「リンクスにおけるバンカーは,そもそも強い風雨をしのぐために羊などが掘った穴が起源」というのがよくわかった。
24-25 May 2015