そういえば最近のフェースローテーションに関する論争というかボヤ騒ぎで,これを思い出した。
Alastair Cochran, John Stobbs『Search for the Perfect Swing』 - Linkslover
『Search for the Perfect Swing』,今から20年以上前にイギリスで出版された,ゴルフスイングサイエンスの魁みたいな本です。
これの第16章が「Wrist Action: Squarers and Rollers」(手首のアクション:スクエア派とローテーション派)ということで,まさにいまこの2020年の日本の一部でボヤ騒ぎが起こってるテーマですわ。
要するに「ダウンスイングでのフェースローテーションの度合いにもいろいろあって,それぞれ一長一短あるよね」ってことなんですが,以前この章をサマライズしたものを再掲します。
1960年代初頭に,ゴルフ界では「スクエア派」と「ローテーション派」との争いがあった。すべてのゴルファーはトップでクラブフェースがプレーンに対して90度開いた状態からダウンスイングをしてインパクトでスクエアになるわけだが,その90度の回転のうち左前腕のローテーションからくるのは30度ほどで,残りの60度ぐらいは腕の上昇とか肩のターンとかに起因する。ローテーションは常に発生するが,その度合いやタイミングはゴルファーによって異なる。トップからインパクトまで90度のローテーションをするのが「スクエア派」。一方「ローテーション派」はトップでもっとクラブフェースが開き(例えば120度とか),ローテーションが増えるだけスイングはパワフルに感じられるが,よりタイミングに依存し,再現性が減る。その逆が「シャット派(あるいは掌屈派)」で,これはトップからインパクトまでのローテーションが90度より小さいスイングのこと。当然インパクトの再現性は増すが,その代わりローテーションからくるパワーを放棄することになる。しかしこれは機械的に考えればそうなのだが,一方でシャットなスイングやその手首の動きは多くの人にとって不自然で居心地が悪いものであるから,それによってヒューマンエラーが起こる可能性はある。また,手首のアクションは体のアクションにも影響を与える(ローテーションが少ないほどより大きな体のアクションを必要とする)ので,ローテーションの度合いの選択は容易ではない。ローテーションの度合いによってバックスイングの動きも変わる。
これに尽きるしこれ以外に何が要るんだって感じなんですが,あと何度かいってるように〈する・しない〉っていう〈all or nothing〉じゃなくて〈度合い〉が問題なんですが,とりあえず「フェースローテーションするほどスイングの再現性が高まる」という主張は*1,暴論とまでは言わないまでも,「ちょっとまってそれほんとかよ」と突っ込まずにはいられません。
ではシャット派の実例を
Twitter上に Davit Poulton という人がいまして,この人,古いゴルファーのスイングの動画とか写真とかをアップしてるんですが,「シャット派」は昔からいたし特別ですらないことが分かります。
例えばこんなの。
Harmon pic.twitter.com/uOmF6yMO5N
— David Poulton (@doglegpar3) April 3, 2020
ハーモンとしか書いてないけど,あのブッチ・ハーモンの父親のクロード・ハーモンSrですかね。このかたちは今のDJっぽい雰囲気すらあります。
Mr Lu pic.twitter.com/lO6DBd4S9A
— David Poulton (@doglegpar3) April 3, 2020
Lu Liang-Huan(呂良煥)でしょうか。
トレビノのいい動画が見つからないなぁ……。
Jimmy Bruen pic.twitter.com/OQFFdTqv7E
— Patrick Brady (@flatpat55deg) November 16, 2019
関係ないけどこれ,マシュー・ウルフっぽいですね。
繰り返しますが,結局は「度合い」の問題で,ある範囲の中でどこを選択するか,それにまつわるリスクとリターンは何か,それを理解した上で自分はどのようなポジションを取るのか,という問題だと思います。