「ゴルフスイング物理学」を念頭に置いたかのような書名ですが,それはさておき。
もちろん重箱の隅をつつくような指摘はできるけど,新書という限定されたフォーマットの中で,ジェイコブス3Dのエッセンスを伝えるのには成功していると思う。いちおう僕自身はジェイコブスの本は読んでいるけれど,この本で理解の整理ができたのは良かった。
一方で,「クラブが主」「カラダは従」というサブタイトルというかスタンス。これは,それがどういう意味合いで言われているかで,けっこう微妙だと思うんですよね(「クラブに仕事をさせる」と主張しつづけてきた森さんとか三觜さんへの配慮を感じさせる,といえば言い過ぎだけど)。ジェイコブスのスタンスとしては,ハブパス(つまりは手の位置とか運動)に影響を与えないカラダの動きは意味がない,ってやつで,それは分かる。ゴルファーがクラブに与えている力を3次元のフォースと3次元のトルクとに分解して分析しようとするのも分かる。でもそれは,あくまでひとつの分析のフレームワークを与えるものだし,そうすることで今まで見えなかったものが可視化・定量化されるというメリットは明らかにあるにせよ,一方で能動的に動きを起こしているのはゴルファー(カラダ)の側であって,その結論がフォースとトルクというかたちでゴルフクラブに伝わってその運動を促す,という意味では,どっちが主でどっちが従とか簡単に言えないんじゃないの?と,どうしても思っちゃうんだよな……。
あと,「感覚表現に頼らない,これが科学的なスイング理論だ〜」と仮になったとしても,勘違いする人は必ずいるはずで,例えばスイング中はγフォースがずっとかかってると言われて,そうかと思って両肘を曲げてクラブを自分の側に引き寄せる人とか出てくる気がするんだよね。「αのフォースを入れてそしたらβのローテーションが入るからそれを相殺するためにβのトルクを入れて」っていう言い方で腹落ちするならそれでいいし,「リフトアップしつつクラブが垂れないようにコック入れて」っていう方がしっくりくるならそれでいいし,そのへんはどこまでいっても我々情報の受け手側の理解度とかリテラシーの問題って気はしますね。ただまぁ,「何が正しいか」についての議論は,この分析フレームワークのおかげでしやすくなってる。それは間違いない。
あとはまぁ、複数の視点を持ちながらそれを使い分けること,視点を移動させつづけることが,上達のためには大事なんだろうと思うけど,それについてはまたそのうち。
余談だけど,僕の解釈では,Jacobs 3D というのは,ゴルフスイングを微分的に解析するものだと思っている。ゴルフクラブの動きがある,そして剛体としてのゴルフクラブがある。そこから,瞬間瞬間での,ハンドパスにかかっているフォースとトルクが計算できる。逆にいえば,瞬間瞬間での,ハンドパスにかかっているフォースとトルクが分かっていて,そしてゴルフクラブの剛体としての特性(重さとか長さとか重量配分とか)が分かっていれば,そこから積分的にゴルフクラブの動きを再現できる。OK,それは間違いない。そして,「トッププレーヤーたちのゴルフスイングは効率的な動きであるはずだ」という仮定(それは確からしい仮定だけど)のもとで,最適なフォースとトルクの流れを決定する。でもそれはやっぱり,ゴルフスイングという動作,あるいはゴルファーの「意識」までも「系」に含めれば,あくまでひとつの側面にしかすぎないと思うんだよなぁ。
あとはそうか,γトルクだけはプロネーションとサピネーションとに単純に結びつけられそうだけど,それ以外のフォースとトルクは,手首だけじゃなく,前腕から下半身の動きにまで関連してくるので,そこがなんていうか,微分的にクラブの動きを分析したとして,それを積分するときに不定なんじゃないの?ってとこが,いちばん引っかかるとこかな,個人的には。
概要
第一章 ゴルフはなぜ難しいのか?
- クラブの挙動を考えずしてスイングは成り立たないのである。にもかかわらずカラダの動かし方にばかり注目し,努力して間違った動きをカラダに染み込ませる。これが日本のゴルフレッスンの現状だ。
- PGA(日本プロゴルフ協会)の教本はshit。
- 自分語り。
- ジェイコブス3Dでは「ヒジ先はクラブの力学に支配される」を大原則とする。これを大前提に,クラブとカラダが唯一つながっているグリップに,どのような動力を与えたら効率的かを解明している。
第二章 キネティクス解明への挑戦
- ネズビット教授が目指しているのはグリップにどのような動力を与えるとゴルフクラブはどう挙動するかの解明である。この動力学というべき世界をキネティクスという。
- 運動連鎖:キネマティクスシークエンス。
- つまるところ問題は,そこでプレーヤーの手がどんな動力をグリップに与えているかで,この動力全般をキネティクスと呼ぶ。
- ジェイコブス3Dはネズビット教授が愚直に検証し続けたメカニカルエンジニアリング・ロボット工学をベースとした考え方に基づき,グリップで起こっていることをゴルフクラブのモーションキャプチャリングデータから帰納科学的にエネルギーを計算するソフトウェアであり,グリップ圧を直接測っているわけではない。
第三章 ゴルフクラブの偏重心特性と人がクラブに与えるもの
- ゴルフスイングの本質は重心の管理であり,スイングとは究極的にはクラブの重心をコントロールする作業なのである。
- 中上級者になるとフェースコントロールを意識するが,それは重心のコントロールの結果でフェース管理がなされるということなのだ。
- ハーフショットの位置からゴルフクラブをボールに向かわせると労せずボールを打てると思うが,これはクラブの重心がボールに向かうベクトルのエネルギー以外にはほぼ我々は何も無駄なエネルギーを与えないからである。
- 重心の管理とは何か? 結論をいってしまうと,偏重心の剛体であるゴルフクラブの重心の管理は,グリップを引くことによって達成される。
- スイングで迷ったときに立ち戻って疑うべきは,重心を引っ張り続けていないポジションがあるのではないか,ということ。
- アルファ・ベータ・ガンマ軸と,アルファ・ベータ・ガンマフォースの導入。
- フォースに伴うローテーション(重心から離れた位置にフォースをかけたときに)。
- (「α軸を中心に直角に回転させる運動をαトルクといい,その回転面はβ軸に沿う」って書いてるけど,本当は「βプレーン」だよなぁ。)
- (「合計12種類のエネルギーがクラブに与える力の全て」という書き方も違和感があって,より正確には「12の次元で表現できる」なんじゃないだろうか。というか,ポジティブ・ネガティブの方向は符号の違いで表現できるから,次元は6つなんだけど。)
第四章 ジェイコブス3Dによるスイング解析
- P6以降は強力な重力フォースがかかるため,スイングにおける最重要事項は,P6までにいかにクラブに与えるフォースとトルクを管理し,正しいベクトルで正しいエネルギーを作るかということになる。(「重力フォース」ねぇ。重力なんて最初から最後までかかってるので,P6以降でって言うのは違和感ある。)
- 適切で効率的といわれるP2ポジション(後方から見てクラブヘッドとグリップが重なって見える位置)に上げるには,(ポジティブαフォースによって)生じたβローテーションを相殺するネガティブβトルクをプレーヤー自身がかけなければいけない。(このへんは,ゴルファーのすべき動きをフォースとトルクってフレームワークで記述してるだけだよね。同時に,「カラダは従」といいつつも,このへんは例えばリードアームアブダクションアングルとか,右肘の角度とか,カラダ側からの視点がなければ不十分でしょう。)
- (「Gフォース(重力エネルギー」って書いてるけど,Gフォースと重力エネルギー(位置エネルギー)は別物だろ。)
- スピネーションを入れない限りクラブヘッドはスクエアにならない。(ここで言ってるのは前腕の動きとしてのスピネーションなのか,それともγトルクをスピネーションって言ってるのか。)
- ガルシアのように切り返せるのはイナーシャが少ないから。すなわち,クラブがローテーションしているタイミングで,ヘッドの回転の中心が重心に近いところにある。これに対してジョン・ラームは切り返しが浅い。これはグリップのあたりを支点としてクラブが回転していると考えられる。重心から遠いぶんイナーシャが大きいためボディワークには大きなエネルギーを必要とする。
- ほとんどのプレーヤーはトップから飛球線と逆方向に入れるフォースがあることを知らない。
- 昨今は切り返しの時点で左手首を掌屈させきってダウンスイングに向かうスタイルが流行っている。これを否定するものではないが,そうすることで切り返し時点で発生させなければならない正しいエネルギーのベクトルが本当に確保できるかを,個々のプレーヤーについて精査しなくてはいけないだろう。
- パッシブトルク。まずジェイコブス3D的には,トルク(能動的にかけるもの)はパッシブではない。そしてパッシブトルクは,二次元的な見方の産物。
第五章 ゴルフスイングの本質と効率的スイング
- スクエアグリップで握ると仮定すれば,ヒジ先の動きはゴルフクラブを含め全てニュートン物理学で説明しきれてしまう。(スクエアグリップじゃなかったら? 量子力学で説明されるの?)
- シャローイングの本質はトルクエネルギーの確保。フォースによる出力エネルギーがその効率上ピークに達しているツアープロにとって,さらなるエネルギーを得るために手をつけるとすればトルクしかない。
- (アマチュアの場合)フォースを高めるという伸び代がまだ十分あるのにトルクを上げるのは非効率この上なくナンセンスとさえいえる。
- 日本の女子プロたちにいえるのは,バックスイングで高い位置にクラブを上げ,そこから自分が頑張ってクラブをヨコ振りでボールに向かわせていくということだ。