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ライダーカップ2023のヨーロッパチームの裏側を描いたドキュメンタリー『Una Famiglia | Team Europe's Story』を観た。Netflixの作品のような凝った作りではないけれど,ヨーロッパチームのファン――そしてルーク・ドナルドのファン――としては,グッとくる内容だ。
これを観るまで忘れかけていたんだけど,僕はルーク・ドナルドのファンだった。ゴルフを始めたのが2012年,その直後にライダーカップ――"Miracle at Medinah"――を観て,ゴルフネットワークで解説のタケ小山が「ルークはゴルフがうまいねぇ」って唸ってた。小柄で飛ばなくて小技が上手い姿に自分を重ね合わせて,いつのまにかルークのファンになっていた。
そのルークがヨーロピアンチームのキャプテンになった2023年のライダーカップ。これまた忘れかけていたけれど,もともとはヘンリク・ステンソンがキャプテンをする予定だったところ,ステンソンがLIVに行ってその権利を失い,急遽ルークがキャプテンに指名された。多くの準備を要するキャプテンという要職を務めるにあたってはそのスタートの遅れと混乱はネガティブでしかないのだけれど,ましてやホームで開催されるライダーカップ。ルークのことだから勝算があったからこそ引き受けたのだろうとはいえ,そんな状況から「ヨーロッパチーム史上最高のキャプテン」とまで称されるところまでもっていったのだから,さすがオレがかつて愛した男だ。
そんなルークを陰に陽に支えたのが,妻のダイアン。ライダーカップにおいては「ゴルフのことはルークが,ゴルフ以外はすべてダイアンが」決めたらしいが,裏方でありながらチームをひとつの”家族”――Una Famiglia――にまとめあげるのは,キャプテンの妻の役割も多大なんだと,このドキュメンタリーでよく分かった。寡黙なルークに饒舌なダイアン。ルークの話をさえぎって自分の話をつづけるダイアン。いつも”待つ”側のルーク。世界中どこの家庭にもありがちな姿が見えるのも微笑ましい。
さて,ヨーロピアンチームの精神的支柱といえば,昔も今もセベ・バレステロス。誰のコメントだったか忘れたけれど,そのセベと並んでいまのヨーロピアンチームの基礎を作ったのは,ファルドでもモンティーでもランガーでもなく,トニー・ジャクリンらしい。そのセベのパートナーだったホセ・マリア・オラサバルのコメントも要所要所で映し出されるが,セベの魂がホセ・マリアを通じて今のヨーロピアンチームに受け継がれているようで,これは見ていてグッとくる。そしてもうひとり,セベの魂を受け継ぐといえば,キャディーのビリー・フォスター。ビリーはマット・フィッツパトリックのキャディーとしてこのライダーカップに参加したわけだけれど,キャディーたちのミーティングにルークが姿を現し――そんな裏舞台が見れるのがこのドキュメンタリーの魅力――,ルークがビリーの過去を称え,ビリーが想いを語り,チームがさらに一丸となる。これまたグッとくるシーンだ。
ヨーロピアンチームの勝利に貢献したと言われているのが,大会数週間前に行なわれたスカウティングトリップ。12人の出場プレーヤーが決まり,彼らが初めて一堂に会し,大会会場を訪れる。そこでただプレーするだけでなく,1番ホールではセレモニーも用意され,さまざまなかたちでチームのボンディングが強まっていく。USチームがその間どんなことやっていたか知らないけれど,こりゃヨーロピアンチームに大いにアドバンテージあったわ。
そしてご存じの通り,ルーク率いるヨーロピアンチームは勝利をおさめ,ルークはプレーヤーたちから絶大な信頼を受け,表彰式で”Two More Years”が叫ばれ,2025年のBethpageでもルークが再びヨーロピアンチームを率いる。エドゥアルド・モリナーリ――フランチェスコの兄であり,ルークと並ぶ知性派――はもう副キャプテンになることが決まっているようで,ルークとともにBethpageを訪れてプレーしている。そんな姿に2012年のプレーヤーとしてのルークが重なったあたりが,個人的にはいちばん泣ける。
そういえば,2012年のときのキャプテンはホセ・マリア・オラサバルだったな。2025年も,もしかしたら……。