パー3コンテストで優勝したケビン・ストリールマン。その隣にいた少年キャディには,こんなエピソードがありました。このストリールマンの優しい笑顔を見るだけで泣けてきます。「パー3コンテストで勝った人は本選で優勝したことがない」なんていうジンクスは,もはやどうでもよくなりますね。
ソース
http://espn.go.com/golf/masters15/story/_/id/12638216/masters-wish-comes-true by Jason Sobel, 8 April 2015
抄訳
ジェニファー・クーチは2年前,11歳の息子イーサンが,不規則な行動をとることに気づいた。彼の手は震え,足は痛んだ。彼のバランス感覚はおかしくなり,ズボンを履いたり靴ひもを結ぶことが難しくなった。
とある金曜日,ジェニファーは小児科医に息子を連れて行った。震える声で,自らの不安を伝えた。自らの診断を伝えるときまでに,その頬を涙がつたった。
その涙のなかで,彼女は医師に伝えた。「彼は脳の手術が必要だと思うんです」。
検査の結果,そのもっとも恐れていたことが確認された。イーサンには中脳視蓋グリオーマがあった。脳腫瘍が脊髄液の循環能力を妨げ,水頭症と行動に関するその他すべての症状を引き起こしていた。
4日後,彼は手術を受ける。医師たちは,その腫瘍は良性ではあるものの手術不可能であることを知る。イーサンを定期的に診察する以外に,医師たちにできることはなかった。
イーサンが手術を終えて目覚めたとき,看護師が彼の部屋に入っていった。「あなたはチャンピオンだったって聞いたわよ」と看護師は言った。「だから,家に帰って願いごとをしてほしいの。何でもいいから選んでね」。
イーサンは家に帰って考える必要はなかった。父のジェフ はかつてプロゴルファーで,9ホールのプレーをするとき,母のジェニファーが生まれたばかりのイーサンを抱えて一緒に歩いていたのだ。イーサンは自然にゴルフを愛するようになった。そしてその看護婦から願いごとと言われたとき,イーサンはすかさず答えた。
「マスターズに行きたいな」。
3月7日,イーサンの13歳の誕生日の2日後にケビン・ストリールマンがイーサンに電話をかけたとき,ケビンはこの話を知らなかった。本当のところは,イーサンがマスターズに行きたいという願いをしているということ以外,ケビンはイーサンについて何も知らなかった。
今週,ストリールマンは4回目のマスターズ出場となる。2011年の初出場のときは,パー3コンテストのキャディとして彼の父親を招待した。次は彼の母親の出番。そして昨年は義理の父が呼ばれた。
トラベラーズ選手権を優勝してマスターズの出場権を得た直後に,ストリールマンはこの機会を本当にそれが見合う誰かにオファーしようと決めた。彼の娘ソフィアは昨年12月,妊娠合併症のさなかに生まれた。家に来るまで,ソフィアは新生児集中治療室で7日間をすごした。その期間は,ストリールマンにある成熟した考え方をもたらした。
「その経験は,僕の子供に対する見方を大きく変えました」と,ストリールマンは語る。「困難に直面した子供を抱える親たちがいかに大変な時間を過ごしているか,それについての理解が完全に改まりました」。
ストリールマンは「Make-A-Wish 基金」の地元支部に連絡をとった。そこで,マスターズに出たいという願いを持っている子供はいないかどうかと尋ねた。
まもなくして,ストリールマンはイーサンに電話をして,とある申し出をした。
「うん,あなたのことを知ってますよ」。ストリールマンが自己紹介したとき,イーサンはこう答えた。
しかし,ストリールマンが電話している理由までは,イーサンは知らなかった。
マスターズ出場者として,水曜日のパー3コンテストにキャディーを選べる権利を持っていることを,ストリールマンは説明した。そして,そのキャディーとしてイーサンを選びたいと。
イーサンは声を失った。スピーカーフォン越しにそれを聴いていた両親は,泣き始めた。ようやくイーサンが話し始めたとき,その声は震えていた。
「僕はただマスターズに行きたかったんです」。のちに彼は言っている。「ここまでのことは期待していませんでした」。
そして今,彼はオーガスタに家族みんなとともにいる。すべてのキャディに与えられる,あの有名な白いジャンプスーツを着る用意をしながら。
イーサンのベストスコアは82。その大役にふさわしい。
「ケビンが間違いなく正しいクラブで打つように,しっかりやるよ」と,自信を含んだ笑いとともにイーサンは語る。
ストリールマンと過ごす水曜の午後,イーサンは脳腫瘍を気にしない。来週受けるMRIも気にしないし,これから長く続くであろう病気のことも気にしない。
彼は,自分の夢をかなえることに,全力で集中するだろう。
そんな少年をしたがえるストリールマンは,子供が自らの生を輝かしいものにすることを,ただただ願うだけだ。
「僕はただ誰かのドアを開いて,そして願わくば苦境を切り抜けたあとに素晴らしい1日を与えたいだけ」と,ストリールマンは言う。「これは僕自身のことじゃない。これはお返しなんです。自分の持っているチャンスを,誰かの願いをかなえるために使いたいんです」。