マキロイがマスターズで勝ってグランドスラム達成して，誰の文章をいちばん読みたいと思ったかというと，Kyle Porter だったんですよね。これを書いた人：
このウェットでパーソナルな文体。マキロイに対する思い入れがいやでも感じ取れる筆致。このKyleがどう書くか……。あいにくKyleはCBS Sportsを離れてNormal Sportという独自のメディアを立ち上げて，そこに掲載されたのが以下の文章。そういう場の違いもあってかちゃんとした文章にはなってなく，個人的な想いを綴るだけになっているのが残念といえば残念ですが，ただKyleに限らずマキロイファンであれば，何か響くものはあるだろうなって感じです。
ソース
The Future and the Past | Normal Sport Newsletter No. 185 by Kyle Porter, Jason Page, 14 April 2025
拙訳
ジョージア州オーガスタ — 2023年8月のことだった。私たちはアトランタのフォーシーズンズホテルで夕食を共にした。この話をするべきなのかどうか分からないが，ロリーがどんな人物なのかを説明する上で，これは重要な — もしかしたらもっとも重要な — ことなのだ。 *1
彼はステーキを注文して，私はサラダを頼んだ。会話は3時間に及んだ。 *2
その中で彼は，私たちが出版した2冊目の本『Normal Sport 2』の一部を読んだと言った。セントアンドリュースで行なわれた第150回全英オープンについて書かれた部分を読んで，彼は信じられない思いで目を伏せ，それからまた顔を上げたのだ。 *3
「泣いたよ」，と彼はささやいた。 *4
その声はほとんど聞こえなかった。私が身を乗り出すと，彼は繰り返した。 *5
「泣いたんだよ……」 *6
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ロリーはよく泣く。いつも。そう見える。 *7
それは彼の最大の特徴であり，それでこそ彼は彼になる。 *8
思うに，それだからこそ私たちは彼を愛し，それだからこそ彼が私たちにとって最も大切な存在なのだ。 *9
14年前，人生で一度はあると思っていた最高のチャンスを蹴り飛ばし泣き叫んだ少年は，今や一人前になった。 *10
時が流れた。だが，心の奥底では彼は変わっていなかった。彼は夢を見る少年のままだった。自身の人間性を保ったまま。 *11
日曜日，これらすべての夢が，現実になった。 *12
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ロリーはひとつの午後で，千もの人生を生きた。 *13
グランドスラムはすぐ手の届くところにあると思われるショットが，何度も何度もあった。そしてすぐ次のショットで，それがなぜか消え去ってしまった。一打ごとにゴルフの歴史が動いているかのようなラウンドだった。スピース的ローラーコースターに10年間乗ってきた人々でさえ，解放を乞うような一日だった。 *14
10番ホールでバーディーが出た時，私たちは彼を応援した。私はジェイミー・ウィアーを見て，「もう終わりだ。終わった」と言った。 *15
終わってはなかった。 *16
わかっていたはずなのに。月曜日に全部書いたんだから！ マスターズを獲ったと思っても，手から滑り落ちてしまう。 *17
それがこの場所のやり方であり，決して敗走にはならない。 *18
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でも，そう感じたので，私は電話に近づいた。震えながら，唯一知っている番号にダイヤルした。 *19
妻が電話に出た。「ジュードを……電話に出してもらるかな？」私はやっとのことで言った。「彼に伝えたいことがあるんだ。」 *20
11歳の息子の声に，私は心を痛めた。 *21
彼の声はすごく幼かった。1997年のマスターズでタイガーが優勝した時，父親と一緒にそのシーンを観戦していた頃のロリー少年のように。 *22
「もしもし」，私は言葉を詰まらせた。 *23
「君がちゃんと観てるか確かめたかったんだ。今回は特別なものになるよ。」 *24
「パパ，僕観てるよ。ロリーが勝つと思うんだ。」 *25
生きている限り，私はその言葉を決して忘れない。 *26
自分が何を言ったかは覚えていないが，この混乱の中でも息子のことだけを考えていたということを，彼に知ってほしかった。 *27
いつか彼も自分の夢を持つだろう。そして，その夢の多くを思い出すことはなくなるだろう。しかし，マスターズが大きな意味を持つ年齢で，彼が生涯で出会った最高のマスターズ。それはきっと忘れないだろう。 *28
そして彼が21歳か31歳になったとき，私が1000マイルも離れた場所からあの瞬間を分かち合おうとするほど彼を愛していたという思い出を，ずっと持ちつづけてほしい。電話を切ったとき，私の手は震えていた。ロリーの手も，その後1時間半，震えつづけた。 *29
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正直に言うと，彼がそれを成し遂げるとは思ってもいなかった。山はあまりにも高いように見えた。信じられないほどの課題だった。 *30
「ジャック，ゲーリー，トム，タイガーとかさ，みんなここに来て，いつか僕がマスターズで優勝するって言ってたよ」，ロリーは言った。 *31
「そって重荷すぎるでしょ。本当に。」 *32
1週間でダブルボギーが4回，それでも彼は立ち直りつづけた？ 心を打ち砕かれ，恐怖を覚えた場所で，どうしてこれほどの回復力を発揮できるのだろうか？ *33
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どのショットが記憶に残るだろう？ *34
後半の9ホールを，友人と一緒に歩いた。14番，パーには遠すぎるところで，ポラスを見上げた。「彼がこれを外したら，どうやって復活するのかわからない」，と彼は言う。 *35
まったくそうだよな。自分でも分からなかった。 *36
15番の木の陰で，KVVとニールはほんの数フィート先にいた。息子に電話したと伝えると，KVVは私を抱きしめた。私たちはいつも感情の起伏が激しい。そういう意味では兄弟で，一緒に涙を流したこともある。 *37
「彼はグリーンを狙うの？」私は彼に尋ねた。ロリーが叫んで立ち去る前に。 *38
彼の今後のキャリアを決定づけるであろう音を聞き逃すまいと耳を澄ませていると，KVVは目を閉じた。まるで世界が一瞬止まったかのようだった。目を開けると，そこにあったのは，彼の顔に向かって叫ぶ私の姿だけだった。 *39
彼の人生最高のショット。 *40
まさにそれだった。 *41
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彼は今日100ホールをプレーしたに違いない。たった19ホールだったはずがない。こんなことは本当に起こったのだろうか？ それとも，月曜日に目覚めたらまたラウンドが待っているのだろうか？ *42
彼は18番ホールに立った。まさかそこでさらにプレーしなければならないとは思ってもみずに。すぐ先で歓声があまりにも大きく，パット・リードがホールアウトしたのかと思ったほどだった。しかし，そうではなかった。巨大なボードに，ロリーの赤い〈12〉が掲げられたばかりだったのだ。 *43
観客たちは，我を忘れた。 *44
そしてロリーは，125ヤード先で，我を忘れたかもしれない。 *45
簡単だと思っただろうか？ 11年間の歳月が，指を鳴らすだけで消え去ると思っただろうか？ 過去55年間で2人目のグランドスラムを達成することが，単純明快でシンプルなものになると思っただろうか？ *46
いや，そんなわけないでしょ。 *47
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幽霊たちはすべて永久に消え去り，それは一瞬で終わった。 *48
マスターズチャンピオン，グランドスラム達成者，史上最高のヨーロピアンプレーヤー，彼の非凡なゴルフ人生で最高の日。 *49
多幸感は予想していたが，想像していたよりも生々しいものだった。 *50
世界は重い。期待には代償が伴う。 *51
しかし，少年は大人になると夢を叶えた。そして，少女の顔に向かって泣きながら，愛していると告げた。 *52
15番のショットは素晴らしかったが，このシーンは決して忘れない。 *53
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「ロリー・マキロイのどんなところが好きなのか？」これは，私が今週ずっと自問し，考えてきた問いだ。 *54
悪いけれど真実の答えは，一つだけではないということだと思う。 *55
15番ホールの最後の2つのアプローチショット — すべてのホールの中で！ — は、いつまでも思い出に残るだろう。土曜日のは素晴らしかったが，日曜日のショットはミュージアムに展示すべきものだ。もちろん，彼はパットを外した。 *56
いつもそうだった。 *57
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くだらないゴルフのラウンドで，こんな気持ちになったことは一度もない。確かに結果を期待しているが、なぜ？ すべてのギフトを授けられた北アイルランド出身のあの子のことを，なぜ自分は気にしているんだろう？ *58
これほどまでに気にしているなんて，ありえない。 *59
しかし，心は自ら望むものを求める。そしてもしかしたら，心の奥底では分かっていたのかもしれない。バーディーが決まったら，彼は完全に崩れ落ちるだろうと。 *60
確かにあれは，私たちのゴルフ人生における最高のリアクションだった。 *61
重荷は永遠に消え去り，悪魔は土の中に消えた。 *62
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スコッティとのジャケット授与式で，彼はまたも言葉に詰まった。娘に語りかけている最中，言葉をつづけることができなかった。 *63
「決して夢をあきらめないで。」彼は声をしぼった。 *64
誰も話すことができなかった。 *65
最後に，記者会見で，彼はひと息つかざるをえなかった。 *66
「ハリーは自分が7歳のときから知ってるんだ。」彼は息を吐いた。 *67
「ハリーに最初会ったのは，ハリウッドゴルフクラブのパッティンググリーン。彼とはいい思い出がたくさんある。僕の人生を通じて，彼はずっと兄みたいな存在なんだ。」 *68
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同世代最高のゴルファー。これは今や疑いようもない。史上最高のゴルファーの一人。最後の最後まで，なかなか信じられなかった。 *69
そして，彼は芝の上に突っ伏し，ゴルフのかたちが変わった。 *70
そんな彼が変わっていくとは考えにくい。なぜなら，ロリー・マキロイの最も独特で称賛に値する点は，グランドスラムではないからだ。 *71
それは，彼が自分の心を受け入れるということだ。 *72
プロゴルフ — プロスポーツ — とは，肉挽き器だ。疲弊させ，消耗させる。あとには何も残らない。スポーツ界のスーパースターは，何よりも — 少なくとも，いや，何よりも — そうである。 *73
彼はどういうわけか，ゴルフへの喜びだけでなく，弱さも持ちつづけている。そこが独特だ。別の世界では，憧れの人物が，国の反対側にある固定電話から自分の子供に電話をかけ，その全てを楽しんでいるのを見ている。 *74
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この世界では，しかし，彼はすべてを手に入れた。神殿に祀られている。 *75
いまやゴルフの神とともにいる。 *76
その神々の中で，間違いなく，彼は最も人間的な存在であるに違いない。 *77
*1:AUGUSTA, Ga. — It was August 2023. We met for dinner at the Four Seasons in Atlanta. I do not know if I’m supposed to tell this story, but it is important — perhaps paramount — to help explain just who Rory is.
*2:He ordered a steak. I ordered a salad. We talked for three hours.
*3:At one point, he told me that he’d read parts of Normal Sport 2, the second book we published. When he got to the part about St. Andrews, the 150th Open that left him reeling in disbelief, he looked down and then back up.
*4:“I wept,” he whispered.
*5:I could barely hear him. I leaned in, and he said it again.
*6:“I … wept.”
*7:Rory cries a lot. All the time, it seems.
*8:It is his greatest trait, the one that makes him whole.
*9:I think it’s why we love him, why he’s meant the most.
*10:The boy who bawled his eyes out 14 years ago after kicking away the best chance he thought he’d ever have is now a man.
*11:Time has rolled on, but deep down he hasn’t changed. He remained a boy who dreamed. The preservation of his own humanity.
*12:On Sunday, all those dreams came true.
*13:Rory lived a thousand lives in a single afternoon.
*14:So many shots made the slam feel like it was within his grasp. Then the very next one somehow made it disappear. It was a round in which golf history seemed to shift with every strike. A day that forced even those who have been on the Spieth rollercoaster for a decade to beg for relief.
*15:We picked him up on 10 when a birdie made it five. I looked at Jamie Weir and said, “That’s it. It is over.”
*16:It was not.
*17:I should have known. I wrote the whole thing on Monday! You think that you have a Masters, until it slips between your grasp.
*18:That’s what this place does, and it would never be a rout.
*19:It felt as if it would, though, and so I walked up to the phone. I was shaking as I dialed the only number that I know.
*20:My wife answered. “Could you … put Jude on the phone,” I barely could get out. “I want to tell him something.”
*21:My 11 year old’s voice nearly broke my heart.
*22:He sounded so young. Like the boy that Rory was when he watched Tiger win the 1997 Masters with his own dad.
*23:“Hey buddy,” I choked.
*24:“I wanted to make sure you were watching. This one will be special.”
*25:“I’m watching, dad. I think Rory’s gonna win.”
*26:I’ll never forget that line for as long as I will live.
*27:I don’t remember what I said, but I wanted him to know that even in the midst of all the chaos, I was thinking just of him.
*28:He will have his own dreams some day, and he won’t remember much. But the greatest Masters of his lifetime at an age when the Masters means a lot. That one he will remember.
*29:And when he’s 21 or 31, I want him to carry around the memory that I loved him enough to try and share the moment from 1,000 miles away. My hands shook as I hung up the phone just as Rory’s hands would shake for the next hour and a half.
*30:I never thought that he would do it, if we are being honest. The mountain seemed too tall. The task beyond belief.
*31:“You know, you've had Jack, Gary, Tom, Tiger, you name it, come through here, and all say that I'll win the Masters one day,” said Rory.
*32:“That's a hard load to carry, it is. It really is.”
*33:Four doubles in a week, and he kept on bouncing back? How is it possible to have that much resilience at a place that has crushed your heart, one that you have learned to fear?
*34:What shot will you remember?
*35:I walked with my friends throughout the final nine. On 14 with too many feet for par, I looked up at Porath. “If he misses this I don’t know that he can recover,” he noted.
*36:I think that I agreed. I didn’t know if I could either.
*37:Behind the tree on 15, KVV and Neil were just a few feet away. KVV hugged me as I told him that I had called my son. We are emotional basket cases so much of the time. Brothers in that sense, we have cried some tears together.
*38:“Is he going for it,” I asked him, before Rory wailed away.
*39:As we listened for a noise that would determine the rest of his career, KVV closed his eyes. The world seemed to pause for an extra beat or two. When he opened them, all he found was me screaming in his face.
*40:The shot of his life.
*41:Surely this was it.
*42:He must have played 100 holes today. It could not have just been 19. Did any of this happen, or will we wake up on Monday with another round to go?
*43:He stood on 18, never knowing that he would need to play it more than once. The roar just up ahead was so loud we thought that Pat Reed had somehow holed out. That wasn’t it, though. They had just put Rory’s red 12 on the massive board.
*44:The patrons lost their minds.
*45:And then Rory may have lost his from 125 away.
*46:Did you think that it would be easy? That 11 years would turn to vapor at the snap of his fingers? That the second man to win the slam in the last 55 years would be straightforward and simple?
*47:Surely you did not.
*48:It ended in a flash with the ghosts all gone for good.
*49:Masters champion, grand slam winner, greatest European of all time, the best day of his extraordinary golf life.
*50:The euphoria was expected, but it was more primal than I imagined.
*51:The weight of the world is heavy. Expectation has a price.
*52:The kid caught his dream, though, once he become a man. And the boy cried into his girl’s face and told her that he loved her.
*53:The shots on 15 were great, but remember this forever.
*54:“What is it you love about Rory McIlroy?” is a question I have been asking and considering throughout this entire week.
*55:I guess the bad but truthful answer is that there isn’t just one thing.
*56:Those last two approach shots into 15 — of all the holes! — I’ll think about those for a long time. The one on Saturday was great, but the one on Sunday belongs in a museum. Of course he missed the putt.
*57:That was always how it would go.
*58:I have never felt that way about a stupid round of golf. Desirous of an outcome, yes, but why? Why do I care about this kid from Northern Ireland who was given all the gifts?
*59:It should not mean this much.
*60:But the heart wants what it wants, and maybe deep down it knew. That when the birdie dropped, he would completely fall apart.
*61:Surely that was the reaction of our golf lifetime.
*62:The burden gone forever, the demons in the dirt.
*63:At the jacket ceremony with Scottie, he choked up once again. As he addressed his daughter, he couldn’t continue on.
*64:“Never give up on your dreams,” he squeaked out.
*65:Nobody could speak.
*66:Finally, at the presser, he had to take a pause.
*67:“I've known Harry since I was seven years old,” he breathed out.
*68:“I met him on the putting green at Holywood Golf Club. We've had so many good times together. He's been like a big brother to me the whole way through my life.”
*69:The greatest of his generation. It’s indisputable now. One of the best to ever play. Up until the very end, it was difficult to believe.
*70:Then his face hit the ground and the shape of golf changed.
*71:It is unlikely that he will change with it. Because the most unique and admirable thing about Rory McIlroy is not about the slam.
*72:It’s that he embraces his own heart.
*73:Professional golf — professional sport — is a meat grinder. It will jade you and wear you down until you have nothing left. Superstars of sport most — not least, but most — of all.
*74:He somehow has preserved not only a joy for the game, but a vulnerability that’s unique. In another world, he is watching somebody he admires, calling his own kid from a landline on the other side of the country, delighting in it all.
*75:In this world, though, he got it all. He is in the pantheon.
*76:With the golf gods now.
*77:And among them, surely, he must be the most human.
