Linkslover

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TaylorMade SIM Max レスキュー開発秘話|GolfWRX

マキロイやDJがキャリアで初めてバッグに入れたハイブリッドクラブだといって話題になっている TaylorMade SIM Max レスキュー。僕も釣られてポチりましたが,その開発秘話が GolfWRX に載ってました。

ソース

The inside story of the surprise popularity of the TaylorMade SIM Max Rescue on tour – GolfWRX by John Wunder, 31 January 2020

拙訳

テーラーメイドツアースタッフの写真撮影が11月上旬に行なわれるというのは,世界のゴルフジャンキーたちのあいだではよく知られた話だ。つまりは,タイガーやマキロイやDJやラームや,その他の契約スタッフが一同に会して,テーラーメイドの新作を最初に目にするときだ。

外野にすれば楽しい日だが,テーラーメイドのマーケティングや研究開発やツアー関連の部署の人間にしてみれば,これ以上ストレスのかかる日はない。

新しいクラブを準備する責務は,テーラーメイドの製品開発チーム(Product Creation Team)にある。率いるのはチャンドラー・カー(Chandler Carr)と パトリック・バクスター(Patrick Baxter)。毎年彼らはスタッフのスペックを調べ,然るべき部品を寄せ集め,各プレーヤーのプレースタイルに合わせてクラブを組み立てる。その会話に決して入ることがなかったのが,ハイブリッドクラブ。しかし,誰も使ってないなら,奴ら用のを作ってみない?

話が面白くなるのはここからだ。

冗談か普通の好奇心かは知らないが,チャンドラーはスタッフプレーヤーみんなにハイブリッドを作り上げることを思いついた。正確なスペックを知らないまま,多くに多くの推論を重ね,チーム内部で(バクスターも含む)健全な議論も積み上げた。得に,タイガー・ウッズとか,ロリーとか,その他これまでハイブリッドなんか見向きもしなかったスタッフたちに,どんなものを作ればいいかと。

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チャンドラーのことはよく知っている。彼は高い技量を持ったギア通で,結果を追求するリスクテイカーでもある。考えられる最悪の事態は何か? それは,誰もハイブリッドクラブを手に取らずに,本社に戻ったときに「だから言っただろ?」という白い目の集中砲火を浴びることだ。

果たして,最終的にパトリック・バクスターの同意をとりつけ,レスキューはスペック通りに組み立てられ,発送され,世界トップランクのプレーヤーたちのバッグの中に入れられた。

さて,いまでもツアーではハイブリッドクラブをよく目にする。だがそれは,仕方なく入れられているという面もある。いちばんの理由は,左へのミスが出がちだということ。そしてもっとざっくり言えば,5番ウッドか2番アイアンを手にしたがるプレーヤーがほとんどだということだ。テーラーメイドについていえば,彼らはツアー用のハイブリッドは実際には作ってこなかった。テーラーメイドのハイブリッドは初心者用のものだったのだ。

ストーリーは続く……

テーラーメイドのスタッフたちが,フロリダ州パームビーチに集結した。メディアも呼ばれ,インタビューも少し行なわれる。みんな一同に介する,和やかな日だ。

プレーヤーたちがめいめいに新しいバッグをのぞきこむ。ロリーが最初に声を上げた。

「僕のバッグにハイブリッドが入ってるよ。誰か,僕のロングアイアンのプレーに問題があるって言いたいの?」

もちろん冗談だけど。だけど,マキロイのようなプレーヤーのバッグにハイブリッドが入っているのは,奇妙な光景だった。ところが休憩時間中,ロリーは少し時間をとって,19度の SIM Max レスキューを打ち込むことにした。ボールの打ち方のデモンストレーションのような,マキロイのショーの開演に,その場にいた人たちはただただ唖然とした。

「フラッグは260ヤード先にあって,マキロイはドローもフェードもスティンガーも好きなように打ち分けて,狙っていったよ」。TaylorMade Sports Marketing のクリス・トロット(Chris Trott)が語る。

それまで静かに見守っていたDJも,アクションを起こした。数級打って,そしてバッグに入れた。

テーラーメイドにしてみたら,ベンチャー企業が大当たりをしたようなものだ。ある意味。数週間後,ハワイでの Tournament of Champions でのこと。ロリーとDJが SIM Max レスキューをバッグに入れた写真がインスタグラムにアップされてバズり,それが一大事となった。バズが好奇心を生み,世界ランキングが下のプレーヤーたちにも効果が広がりはじめ,数日のうちにテーラーメイドのツアークルーとたちは,オーダーを必死にさばいていくことになる。契約スタッフからも,契約外のプレーヤーたちからも,オーダーが押し寄せた。

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Farmers Insurance Open でのマキロイ

マーケティング的には良さそうに見えるが,トラックの中の連中には大問題になった。

つまり。SIM Max レスキューはツアースペックのヘッドではなく,一般マーケット用のヘッドなのだ。量販店やオンラインショップのために作られている。普通なら,ツアー用の製品はツアー用に作られている。要するに,ホーゼルは長めでいじれるようになっているし,重心も違うだろうし,打感やスイングウェイトも変えられるようになっている。

問題は,最初にツアープレーヤー用でトラックに送られたヘッドは,一般マーケット用のものだったのだ。だから,誰かが打ってちょっといじりたいと言っても,(ショートホーゼルのせいで)どうすることもできないのだ。さらにそのヘッドは,65グラムで40インチのRフレックスグラファイトシャフト用に作られている。クラブ職人たちの抱くジレンマも理解できるだろう。

これが一度きりの状況だったら,大した問題ではないだろう。だけどこのクラブをテストしたいプレーヤーが,山のようにいる。テーラーメイドは文字通り,今週のフェニックスでレスキューのヘッドの在庫がなくった。トラックのクルーたちは大車輪でクラブを組み立てている。これは「インフルエンサー」のモデルがうまく機能した好例だ。世界ランキング2位のプレーヤーが興奮して,バッグに入れて,バズり,そして他のプレーヤーたちの好奇心を刺激した。

もしかしたら,テーラーメイドはツアー用のヘッドを作るのかもしれない。でもそれには数週間かかる。

まとめ。テーラーメイドはチャンドラーとパトリックの勇敢なアイデアに感謝してるし,チャンドラーとパトリックは,ツアートラックにカオスを巻き起こしてしまったことを申し訳なく思っている。そして4月のある日,ロリーがオーガスタの8番グリーンを SIM Max レスキューでとらえて4フィートのイーグルパットを決めて首位に立ったりなんかしたら,チャンドラーとパトリックはこう言うだろう。「ほら言っただろ」と。

縁の下の力持ちが,いる。