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シングルレングスアイアンに関する科学的な考察|あるいはなぜ番手ごとに長さが違うのか|The Tutleman Site

グレッグ・ノーマンが,「もしまたゴルフ人生をやり直すなら,シングルレングスアイアンを使いたい」と言ったそうですが,

グレッグ・ノーマンのクラブの話|パターとワンレングスアイアン - Linkslover

それで思い出したのが,以前出くわしたこの記事でした。Dave Tutelman という人が約20年の年月をかけて検討し推敲した記事だそうで,技術者の視点から,シングルレングスアイアンの良し悪しを検討したものです。

Single-length irons

飛距離とかについてはモデルとシミュレーションによる計算らしいのですが,シングルレングスのみならず通常のアイアンセットについても改めて考え直す材料を与えてくれる,面白い考察です(が,シングルレングスについてはちょっと尻すぼみというか詰めが甘い印象がある)。

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要点をかいつまみますと……(といっても結構長いのですが)

なぜシングルレングスクラブ(が良さそう)なのか?

  • どの番手でも同じスイングができる。同じ前傾角度で,同じプレーンで振れる。
  • クラブフィッティングが楽。スイングウェイト(バランス)とか慣性モーメントとか総重量とか。
  • シャフトのフレックスについても同様。長さが同じだから,同じシャフトを使えば同じフレックスが実現できる。

ではなぜ通常のアイアンセットはシングルレングスではないのか?

  • 伝統! これまでそうだったから今もそうであるし,それを変えるのは容易じゃない。
  • 飛距離の幅!(Range) クラブセットの中でいちばん飛ぶ番手といちばん飛ばない番手との飛距離の差のこと。番手ごとのロフト角が同じだとしたら,シングルレングスアイアンより通常のアイアンの方が,飛距離の幅は大きくなる。
  • 正確性(たぶん)。シングルレングスアイアンの大きな利点は,多くのゴルファーにとって,「ひとつのスイングをすべてのクラブに」ではない。多くの初級者にとって7番アイアンより長いアイアンは打つのが難しいので,ロングアイアンを短くするということは利点があるだろう。だけど逆に,7番アイアンより下の番手は長くなってしまう。短いクラブほど打ちやすく正確性が高いというのであれば,伝統的なアイアンのようにシングルレングスではなく段階的に短くするべきだ。
  • 運動生理学(たぶん)。シングルレングスアイアンをバイオメカニクスの観点から真剣に検証している分析を,寡聞にして知らない。仮に,フラットなスイングプレーンがより自由なスイングをクラブヘッドスピードを生み出すとしたら,上級者は,飛距離が求められる番手では長いクラブを使い,正確性が求められる番手では短いクラブを使いたいだろう。

ブライソン・デシャンボー

シングルレングスアイアンといえばデシャンボーだが,彼のアイアンセットは

  • 6番アイアンに長さが揃っており(たぶんアベレージゴルファーにはちょっと長すぎる)
  • Jumbo-Maxグリップで
  • とてもアップライト(6番アイアンの通常のライ角は62度。デシャンボーのは73度。この角度のを普通に打ったら,150ydの飛距離で15-20yd左に曲がるはず)

ということで,けっこう独特。ということで,シングルレングスアイアンがいいアイデアだったとしても,デシャンボーがそれを証明したとは言いがたい。

長さと重さ

通常のアイアンヘッドでシングルレングスアイアンを作ろうとすると,スイングウェイト(バランス)がバラバラになる。例えば37インチで揃えると,3番アイアンではB9.5,PWではE2.5というスイングウェイトになる。

PWの通常の長さである35インチで長さを揃えたとして,鉛テープでスイングウェイトを揃えようとすると,3番アイアンで50グラムほど必要になる。(10グラムを内鉛にしたとしても40グラムの鉛テープ,その長さは1.2メートル!)

ということで,シングルレングスアイアンセットを作るにはそれ用のクラブヘッドが必要になる。市販のものではだいたいクラブヘッドは270から275グラムのあいだで揃っている。通常の7番アイアンのヘッドは270グラムほどなので,つまり市販のシングルレングスアイアンは7番アイアンの(かそれよりちょっと短い)長さで作られることを意図している。

市販のシングルレングスアイアンについて,もろもろ

一般的にクラブヘッドにはいろんな種類(ブレード,キャビティ,その中間)があるが,2016年10月現在で市販されているシングルレングスアイアンは基本的に「game improvement clubs(お助けクラブ)」であり,その傾向は続くであろうから,ブレードアイアンを使いたい人は,普通のアイアンセットを選ばざるをえない。(その後2016年終わりに,Cobraが2種類のシングルレングスアイアンは発表,うちひとつはフォージドの「上級者向け」タイプだった)

オフセット。これらの中で最もオフセットが強いのは上級者向けクラブであった。多くのモデルは番手を通して3mmであるのに対して,いくつかのモデルでは番手でオフセットが変わる(ロフトが立っているもので5mmとか6mm)。(参考までに,普通の初心者向けアイアンでのロングアイアンのオフセットはだいたい6-8mm)

ライ角。多くは62.5度から63.5度のあいだに収まっている。これは少しだけアップライトであり,通常の7番アイアンでは62度から62.5度である。

飛距離の幅(Range)

ここでは「Range」を,「クラブセットの中で最も飛ぶクラブと最も飛ばないクラブとの飛距離の差」と定義する。ロフトが同じだとすると,シングルレングスアイアンより通常のアイアンの方がRangeは当然大きい。通常のアイアンの方が長さに差があり,それがヘッドスピードの差を産むので。

では,実際にどれぐらいの差があるのか。

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ここでは番手間のロフトを4度としている(1980年台から90年代中盤までは標準的)。7番アイアンを基準とした。つまり,シングルレングスアイアンの長さを7番アイアンに揃えたと仮定する。

以下は上の表をグラフにしたもの。横軸は番手(10番はPWを意味する)。縦軸が飛距離(ヤード)。

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ショートアイアンでシングルレングスアイアンの方がわずかに飛距離が伸びるが,それよりもロングアイアンでの飛距離の減少の方が大きい。結果,Rangeで7ヤードの差が出た。

番手間の距離差(Gap)

ゴルフで大事なのは飛距離の階段,つまり番手間の飛距離の差である。ここではそれを「Gap」と呼ぶ。

通常のアイアンセットでもGapは重要であるが,シングルレングスアイアンでスコアの改善を望むのであれば,ここを特に重視しなければいけない。

上記のデータからGapを算出しグラフ化したのが以下。「4」は「3番と4番とのGap」を意味する。青が通常のアイアン,赤がシングルレングス。

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見ての通り,通常のアイアンの方がおおむねGapが大きい。グラフがジグザグしてしまうのは,コンピューターによるシミュレーション結果を整数値に丸めていることに起因している。

Gapに関する考察

通常のアイアンセットのGapは,その85-90%がロフトによるもので,残りの10-15%がヘッドスピード(=長さ)に依るものだと,いうことができる。

ということで,シングルレングスで通常のアイアンと同じGapを作るのであれば,その10-15%を補うようにロフトを調整すればよい。

上のシミュレーションでは4度差のロフトを設定していたので,中間をとって12.5%とすれば「4×1.125=4.5」,4.5度のロフト差のシングルレングスアイアンを考えてみる。その結果は,以下の通り。

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これでシングルレングスアイアンのRangeは97ヤードとなって,通常のアイアンと等しくなった。しかし,Gapの折れ線グラフは前よりもジグザグしてしまった。3番と4番との間は8ヤードの差しかないのに,次に小さいギャップは14ヤードもある。

ということで,4.5度のロフト差はRangeに対してはうまくいったが,Gapについては再検討が必要だ。

ロングアイアンにおけるGap

ポイントを最初に述べると,ロフトの立ったクラブで飛距離を最大化するには,ヘッドスピードが必要になる。以下のグラフがわかりやすいだろう。

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セットの中にロフト16度の2番アイアンを加えて,飛距離差を強調してみた。70mph ≒ 31.2m/sは,シニアのミドルアイアンの平均的なスピード。100mph ≒ 45m/sはたぶんツアープロの中間的な数値。

100mph(プロのスピード)では飛距離はほぼ直線のグラフになり,なんからGapはロングアイアンの方が大きい。そしてヘッドスピードが落ちるに従って飛距離も落ちていくが,その落ち込みはロフトが立つほど大きくなることがわかる。70mphではGapは負の値,つまりロフトが立っているほど飛距離が落ちる,ということも出てくる。

Gapの設計

プロはそれぞれの番手での飛距離を正確に把握しているが,多くのアマチュアの場合は「だいたい5とか10yd間隔」というふうに,丸めて認識している。

デシャンボーの場合は,各番手で各スイングをしたときにの飛距離を書いて忘れないようにしている(下図)。

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Gapは一定にした方が,単純だし覚えやすい。3番アイアンからPWまでのRangeが90ヤードだとして,8本のクラブ(7つのGap)があるから,90÷7でGapを13ヤードとしたい(実際には12.86ヤードだが,丸めて)。

とはいえ,全番手で同じように距離のコントロールができるわけではない。飛距離が伸びるほど,狙った縦距離が打てなくなる。ということで,もうひとつのGap設計のアイデアは「Proportional(比例的)」。飛距離に比例してGapを設計する考え方で,こうすることで飛距離の階段を確実に作れるようになる。

等間隔Gap(青)と比例的Gap(赤)とを比較したのが,下図。

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Rangeは3番アイアンの190ヤードからPWの100ydと,いずれも同じ。その配分の仕方が違っている。いずれも理にかなった考え方であるし,プレースタイル等に応じてどちらかを選べばよい。

ロフトのストロング化

1990年台終盤から,各メーカーが飛距離を謳い文句にロフトをストロング化しはじめた(先鞭をつけたのはCobraだったと思う)。

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ロングアイアンのロフトがさらに立ったので,上述の通り,多くのアマチュアはロングアイアンを使う意味がなくなった。同時にPWのロフトが立ったので,かつては必要のなかったGW(ギャップウェッジ)が必要になった。クラブメーカーには新たなセールスのチャンスだが,ゴルファーにとってはメリットはない。

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モダンなアイアンセットのGapを見てみると,等間隔でないし比例的でもないことがわかる。ロフトが立つほどGapが狭まっているので,タチが悪い。赤い点線は,4番アイアンと5番アイアンの中間をとって,22.5度のロフトで190ヤード打てるようにしたもの。こうするとGapは等間隔に近づくし,クラブの本数も減らせる。

なぜこれが市販されないのか? 売上の向上につながらないからだ。

アタックアングルとダイナミックロフト

これまでの議論では,ゼロ度のアタックアングルを仮定していた。つまり,インパクト時のロフトはクラブの(表記)ロフトと同じであることを意味している。

しかし実際には,上級者ほどハンドファーストでインパクトしアタックアングルがマイナスになるので,インパクト時にロフトが立つことになる。

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上図で黒い点線はクラブヘッドの軌道,赤い点線はその軌道の半径を示している。

中級者(Intermediate)は,クラブヘッドが軌道の最下点に到達する前にインパクトを迎える(ロフトが立つ)が,シャフトは軌道の半径上にある。なので,スピンロフトは変わらず,初級者(Novice)より打ち出しが低くなるが,スピンは変わらない。

ツアープレーヤーやトップアマチュアは,軌道の半径以上にシャフトを前傾させる。ダイナミックロフトとスピンロフトが減り,低弾道と低スピンになる。中級者に比べて,軌道の最下点はさらに前になる。

以下が,角度に関する関係式。ここでAはマイナスのアタックアングル,Lがロフト,Xが軌道半径に対するシャフトの前傾角度である。

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このことがまた,飛距離に関係する。初心者(A=0;青),中級者(A=3°;緑),上級者(A=4°, X=2°;赤)として,みなシングルレングス,80mphのクラブヘッドスピードを仮定する。

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上級者(赤線)でロングアイアンの飛距離の減少が見てとてる。実際の上級者は,状況に合わせてクラブヘッドスピードを調整するであろうが。シャフトの前傾はミドルとショートアイアンで飛距離を伸ばす方向に働く。

結果として,Rangeは狭まる(初級者=97,中級者83,上級者75)。

となると,初級者のスイングの方が良いように見えるが,実際はそうではない。その理由として,

  • アイアンショットで大事なのは,飛距離ではなく一貫性。シャフトを前傾させた方が,より安定したショットが打てる。
  • 多くの番手では,シャフトを前傾させた方が,より飛距離がえられる。
  • よりクラブヘッドスピードをあげれば,飛距離の減少は抑えられ,Rangeの減少も抑えられる。初心者やシニア,女性など,クラブヘッドスピードがあげられないゴルファーは,ロングアイアンをハイブリッドかショートウッドに変えるべきだろう。

結論

以下の2つの理由により,シングルレングスアイアンは検討に値する。

  • すべての番手で同じスイングをすればよい。また,重量やフレックス,スイングウェイトなどの調整が容易。
  • ロングアイアンがうまく打てないのであれば,シングルレングスにすることで飛距離がえられる。ロングアイアンはシングルレングスにし,ショートアイアンは伝統的なアイアンを使うということも可能。

飛距離の階段は重要であるので,シングルレングス(のロングアイアン)はここを気にする必要がある。やり方としては,ロングアイアンほどロフトの間隔を広げるか,反発係数の高いヘッドにする。良くないのは,ミドルアイアンのロフトのストロング化。

次のページに,市販のシングルレングスアイアンのGap(シミュレーションの結果)を記載しているので参照されたい。

https://www.tutelman.com/golf/clubs/singleLength2.php