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印南一路『すぐれたゴルフの意思決定』東洋経済新報社

すぐれたゴルフの意思決定―「熟慮速断」の上達法

すぐれたゴルフの意思決定―「熟慮速断」の上達法

抜粋
  • ゴルフは意思決定のスポーツであり,意思決定力の向上が本当の意味のゴルフの上達を意味すると筆者は考える。
  • 状況別の攻め方はコースに出る前に考えておいて,コースでは,いくつかの選択肢の中からすばやく決断してショットに向かう必要があるのである。
  • アマチュアゴルファーが学習スピードを上げ,シングル入りを果たすためには,ミスの原因を分析し,成功率の高い方法に関する仮説を作り実験して,知識を高度化する必要がある。
  • ゴルフで最も重要なのは「判断」だというのが本書全体のメッセージである。そして,これこそが本書と類書を分ける違いである。
  • 著者名を見て,なぜこのような本を書いたのだろうかと疑問に思う方は,あとがきを読んでから読み始めていただければ幸いである。
  • ゴルフは状況を的確に判断し,合理的な判断を繰り返さなければ,よい成果が出ない。運・不運も結果を左右する。ミスも計算に入れなければならない。
  • かなりのゴルファーは100切りが目標になる。想定読者数を考えれば,スイングやショット技術論に関する本が最も多くなるのも仕方がない。
  • 実際には欲を抑えるのは容易ではない。心理学の基本であるが,「何々するな」という命令は,人間にはあまり効果的ではない。
  • 本書が勧めるのは,「的確な状況判断」,すなわち意思決定である。
  • 私たちは素晴らしく効率的な知覚処理システムである半面,フェアウェイの形や周りの樹木の並び,グリーンのマウンドの傾きといった「手がかり」に容易に騙され,錯覚してしまう頼りない機械なのである。
  • そもそも,私たちは成功確率を見積もる際,正確に偏りなく過去のショットを思い出し,成功・失敗の相対頻度を判断しているのではない。
  • ミスター超人が練習の鬼であるのに対し,ミスター柔軟思考やミスター確率戦略は,コースという自然の中で行なうのがゴルフであるから,コースでどれだけ少ない打数で回れるかが,ゴルフの実力であると考える。
  • ドクターゴルフはラウンド前から絶えず勉強している。ふだんから人間の知覚の仕組み,判断の仕組みを学んでいる。錯覚や陥りやすい推論の罠を知っている。判断力の向上は,知識の高度化に等しいと認識している。期待スコアのシミュレーションをして,どんな状況ではどんな戦術が望ましいかの研究をする。
  • ジュニアのときからゴルフを始めて,無数のラウンドを経験した人は,このような錯覚の存在を知っているし,対処方法を自然と身につけている。しかし,ラウンド数の限られた一般アマチュアは,経験まかせにしたのでは,能率が悪すぎる。
  • ドクターゴルフは,ミスター超人,ミスター確率戦略の方法論であるショット技術論やメンタル・トレーニングに加えて,視覚心理学,認知心理学,コース設計論,意思決定論を応用して,学習スピードを加速させることになる。
  • 以下,3つの大きなテーマを扱う。外部情報の取り扱い(知覚),不確実性への対処(確率),意思決定能力の向上(学習)の3つである。
  • どれだけ正確に判断できるかは,どれだけ注意深く正確に観察できるかに依存している。そして,どれだけ注意深く正確に観察できるかは,どれだけ適切な場所に注意を向けられるかに依存する。さらに,どれだけ適切な場所に注意を向けられるかは,記憶に蓄えられた知識に依存するのである。
  • 視覚法則にはいろいろあるが,最も重要なのは安定性の法則と近接性の法則であろう。
  • 安定性の法則とは,無限にある可能性の中から,偶発的に見える可能性は排除して,最も可能性の高い解釈をするというものである。
  • 近接性の法則とは,奥行きの手がかりがない場合,近接する物体の一番近いものと同じ奥行きを持つという解釈をすることをいう。
  • 上り傾斜のホールでバンカー越しにピンを見ると,ピンはバンカーのすぐ近くに見えるが,実際にグリーンに上がってみると,意外に奥に立っていることがある。これはピン位置の奥行き知覚が2次元上の像としては近いバンカーのアゴの線の近くに見えるという近接性の法則に影響されたせいである。
  • ゴルフで50ヤードから100ヤードくらいまでの中距離のアプローチが難しいのは,視点からの距離が増えるに従い,急速に前後の間隔が減少するので,距離差をうまく知覚できないのが最大の原因なのである。
  • 非常に乾燥した空気の中では,かなりの遠方も明確に見えるため,距離を過小評価してしまい,逆に霧がうっすらかかっていると,かなり距離があるように錯覚することになる。
  • これらの幾何学的錯覚が私たちに与える最も重要な教訓は,錯視が存在することを知っていても,錯視自体を防止できないことにある。だから,錯視を知り,それを意識的に調整することが必要であり,またそうすることによって,不必要なプレッシャーを和らげたり,油断によるミスを避けたりすることもできることになる。
  • グリーンに上る前にグリーン全体の傾斜を確認しておきなさいというアドバイスの方が,確認の仕方次第では,むしろ,確証バイアスによる誤判断を招きやすいといえる。
  • 人間は2%の勾配までは自分自身を傾けることによって対応してしまう。これが5%になると危険を察知して,倒れないように重力方向に垂直に立つ。
  • コース設計家が錯覚をどう使うか知れば,錯覚のある場所が見抜きやすくなり,錯覚を予防するのに有効と思われる。ところが,この観点から書かれた書物は,『痛快! ゴルフ学』(集英社インターナショナル,2002年)の第13章「ゴルフ造園学」以外にはほとんど見当たらない。
  • グリーン形状や傾斜の方向・度合いに錯覚を起こさせる要素は数多くある。同じ傾斜で同じ形のグリーンでも,グリーン全体が小さければ傾斜が強調されて見え,反対にグリーンが大きければ傾斜は目立たなくなり過小評価される。
  • 「ゴルファーにとって,最大の喜びはゴルフができることである。その次には,いいスコアをマークすることだ」と,日本アマ6回優勝を誇る中部銀次郎もいう(『もっと深く,もっと楽しく。』)。
  • 上達の指標としてはハンディキャップが最も客観的である。だから,中期的にハンディを縮める最もスピーディな方法を考えることが,限りなく上達するという目標に対して合目的的である。ここでは「中期的」というところがミソである。
  • したがって,重要なのはティショットか,アプローチか,パッとかという質問に対する答えは,ティショットであると答えることになる。
  • プロの試合では,フェアウェイ・キープの重視といっているが,私たちのレベルでは重要なのは,フェアウェイ・キープ率やパーオン率ではなく,「非OB発生率」である。
  • ミドルホールについてまとめると,「OB発生率がゼロならばドライバーで勝負し,5%程度見込まれたら,ドライバーをバッグに戻して,3番アイアンではなく,3番ウッドで打ちなさい」というアドバイスになる。
  • この「べき論」を目標としながらも,「してはいけない論」が指摘する障害を見つけ,その障害を除去することによって,一層目標の実現可能性を高めるというアプローチを取ることができるはずである。
  • この問題を考えるには,どうして私たちが無謀なショットをしてしまうのかの原因を知ることが,第一歩である。この部分はスクリプトとフレーミング効果,さらにシミュレーション・ヒューリスティックという認知心理学の概念で説明する。
  • ゴルフは確率のゲームだといわれながら,あまり確率的な議論がされていないのは,まともな計算ができるデータがないからであるといってよい。
  • ミスター堅実はよいが,ミスター臆病ではいつまでたっても上達しない。
  • なぜ,初心者は難しい状況に直面した際,無謀なショットを選択するのであろうか。初心者はラウンド経験が少ないため,安全なショットを選択し,ボギーを確保しても,ダボやトリプルを避けて利得したとポジティブに評価できないためだと思われる。
  • 実際に,このような期待スコアの計算を事前にしておかないと,どの戦術を選択するのかは,その際どのようなヒューリスティックを用いて決めることになるので,さまざまなバイアスに影響させることになる。
  • ラウンド数の少ない私たちアマチュアは,事前シミュレーションによって,少しでもプロのような判断プロセスができるよう努力すべきであろう。
  • ロングヒッターは単に得意距離を残して攻められるホールの相対頻度が,他のプレーヤーよりも多いということである。
  • シミュレーションでも,戦術選択の分かれ目は,ショットの成功確率であった。
  • 何も考えずにいきなり木越えショットを行うことも,単純に確率計算に逃げショットを回避するのも,認知的にケチっているという意味では同じで,上達する可能性を下げていることになる。
  • この本は苦いかもしれない。しかし,本書を取り上げた人は,考えることを厭わない方だと思われる。ゴルフの楽しみの1つは,考えることかもしれない。
  • 本書は,ゴルフに意思決定論をどう応用するかという観点から書いたが,ゴルフを通じて,どうやって意思決定能力を向上させるかという観点で読んでいただくことも期待している。