Linkslover

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ドライバーの最適なロフト角とは?

家の本棚にある "The Science of Golf" を眺めたいたら,ドライバーの最適なロフトの項目のところで,以下の論文がリファーされていた.「Received 27 March 2000; accepted 9 November 2000」なので,古いことは間違いないけど,この問題を考える上での材料にはなろうかと.

A. Raymond Penner, "The physics of golf: The optimum loft of a driver"

抜粋
  • 空気抵抗を考えなければ,45度の打ち出し角で最大の飛距離を得られる.
  • 空気抵抗を考慮した場合,たとえば野球のヒッティングでは,50m/sの初速と1800rpmのバックスピン量が得られたとしたら,約35度の打ち出し角で最大飛距離が得られることが知られている.
  • この論文はゴルフクラブとボールの打ち出しとの関係を検討し,最大の飛距離を得られるロフト角について考察を加えるものだが,これが先行する研究と異なる点は,ロフトの変更にともなう打ち出し角の変化のみならず,初速とバックスピン量の変化も視野に入れている点である.また,飛距離をキャリーとランに分けて考察している点も重要である.
  • ゴルフクラブとゴルフボールの衝突は非常に「暴力的な事象(violent event)」であり,実際の接触時間は0.5ms(1万分の5秒)未満,その間にボールは200km/h以上にまで加速され,加わる力としては5kNを超える.
  • この衝突の間のシャフトの影響は無視できる.
  • 衝突はクラブフェースのセンターで起こるものとし,その際のクラブヘッドの変形は無視する.
  • インパクトの際にボールは変形するが,それによるエネルギーのロスも考慮に入れる.それを表現する係数をeとすると,ヘッドスピードをv,インパクト時のダイナミックロフトをθとしたときに,e = 8620 - 0.0029v*cos(θ) という関係式で(経験的に)表現される.すなわち,ヘッドスピードが速いほどエネルギーロスが多く,また,ダイナミックロフトが寝るほどエネルギーロスが大きい.
  • クラブヘッドの重さは200g,インパクト時のヘッドスピードは45m/sを仮定する.また,ボールについては規定の通り,直径4.27㎝,重さ45.9gを仮定する.
  • ロフトが増えると,ボールの初速は減少し,バックスピン量は増える.
  • クラブのロフトとダイナミックロフトとの差は,シャフトの逆しなりによって生まれる.ある観察により,ダイナミックロフトはクラブロフトより3.3度多いと仮定する.
  • ひとたびボールがクラブフェースを離れると,その軌道は重力と空気抵抗によって決まる.
  • 着地時のバックスピン量は,当初のバックスピン量の約75%.
  • トータルのバウンドの距離は,最初と2回目のバウンドのあいだの距離の約2倍.
  • こういったモデルをもとに,35m/s(78mph),45m/s(100mph),55m/s(123mph)という3つのヘッドスピードに対して最適なロフトを検討した.
  • トータルの飛距離を最長にするロフトと,キャリーを最長にするロフトは,異なる.
    • 例えば,45m/sのヘッドスピードの場合,最長のキャリー(209yd)は14.9度のダイナミックロフトから,最長のトータル飛距離(232yd)は13.1度のダイナミックロフトから,生まれる.
  • ヘッドスピードが速くなるにつれて,最適なダイナミックロフトは減少する.
    • 例えば,35・45・55m/sに対する最適なダイナミックロフトは,それぞれ16.5度・13.1度・10.7度.
  • 最適なダイナミックロフトにおいて,最大飛距離はヘッドスピードが30m/sで140yd,60m/sで300yd.
感想

たぶん突っ込みどころはいろいろあって,

  • 結論として,最大飛距離が「(ヘッドスピード)× 5」と結論づけられているけど,最近の定説は「(ヘッドスピード)× 6」.それだけここ10年でヘッドの反発が高まってきたということなんだろうけど.
  • クラブの質量が均一に存在していると仮定している点.「フェースのセンターでとらえ,クラブは変形しない」というのを仮定しているけど,最近のクラブは低重心化が進んでいるので,この仮定は非現実的.
  • それに関連するけど,ギア効果が考慮されていない.実際にはフェースの上部でとらえるほどにバックスピン量が減少する.
  • ダイナミックロフトはクラブロフト+シャフトの逆しなりとしているけど,実際はスイング軌道も影響する(アッパースイングかダウンスイングか).

とはいえ,実証データと理論を組み合わせながらモデルを構築して最終的な結論を出すという流れは,さすがサイエンスの論文だなぁと感心する次第.